【荻上チキの短期集中連載】ルポ・遺体安置所が語りかけるもの vol.5「誓い」

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◆安置所の風景

話を終えた私たちは、安置所の中を案内していただいた。警察対応のプレハブ、遺族対応のプレハブ、遺骨を並べているプレハブ、遺留品を並べているプレハブ、そして遺体が並べてある巨大テント。

遺骨は濃紺の布に6体ずつ包まれて並べられている。東京で火葬された遺骨には「東火」と記され、石巻で火葬されたものとの区別が可能になっている。今、この場所には、170ほどのお骨が並べられている。

遺留品のプレハブには、大量のビニール袋が並べられている。識別のための数字が書かれた袋の中には、遺体が身につけていた衣服が収められている。いくつかの衣服は洗濯されているが、発見されたときのままのものあり、砂や泥が衣服にまとわりついている。

プレハブ内には、お線香と蚊取線香が常にたかれていて、秋だというのに扇風機がフル回転している。中に入ると、独特の匂いが体を包む。煙の匂い、泥の匂い、潮の匂いなどが混ざり合ったような匂い。

「臭うでしょう。でも、これでもだいぶマシになったんです。夏場は本当にすごかったですよ。慣れちゃいましたけどね」

ふと周りを見渡すと、通路のあちこちに、「撮影禁止」の張り紙が貼ってある。いつ頃から、この注意書きが貼られているのだろうか。

「貼り紙は、当初からやっています。総合体育館、旧青果のときから、撮影は禁止しています。過剰な報道を避けるためですね。

被害程度がだんだんわかるにつれて、マスコミさんもたくさん来るわけですよ。もともと石巻という土地は、あまり知名度のない地域でした。ところが、被災程度が大きく、範囲も広いということで、マスコミの方がどんどん入ってきました。安置所にも、毎日のようにテレビクルーが入ってくる。それに対して、警察さんがわざわざマスコミ対応を出す、そういう日々が続きました。

でも、撮影禁止をしても、望遠レンズで撮影する方が出てくる。カメラのクルーが来て、東京に火葬に行くトラックを映す。遺族にくっついて中に入ろうとしたり、安置所からでてきた遺族の方にマイクを向け、コメントをとったり。

報道することをダメだといっているわけではないんですが、遺族への対応をする場所ですから、遺族感情を考慮してほしい。取材が問題ないという方もいるでしょうから、結局は個別で判断いただくほかないのですが、少なくとも業務を行なっている敷地内では、一線をひいていただきたいと思ってのことでした」

そして最後に、安置所のテントを訪れる。遺体から脱がせた衣服が洗濯され、ロープに吊るされている。小学校の25mプールほどはある巨大テントの中、臭気対策のため、巨大な扇風機が音をたててまわっている。職員の方が、せわしなく動きまわる。そしてテントの真ん中に、お棺が4つ、静かに並べられている。

「遺体そのものは、お見せできる状態ではありませんので」。順一さんの言葉に、僕らは静かに頷く。ピーク時は、この巨大テントを埋め尽くす数の遺体が並んでいた。しかも同じサイズのテントが、ところ狭しと20~30張ほど並んでいた。見渡すかぎり一面に並ぶ、遺体の姿。1000を超える遺体が整然と並ぶ中、懸命に家族を捜す者たちの姿を思い浮かべ、歯を食いしばる。

◆「ピーク」を乗り越えて

3月から5月頃までは、非常に多くの人々が安置所に訪ねてきた。毎日100組超、人数にして400~500人もの人たちが、遺体を探しにくる。それらすべてに、職員は丁寧に対応していかなくてはならない。

「受付対応だけでも、10名くらいいました。ご遺体の確認する者も3、4名います。遺族対応もするけど、警察対応もする。ピーク時には、総勢で20~30名でやっていました。」

それが11月現在では、訪れる遺族の数は、一日あたり数組、数名。職員の数は、臨時職員を含めて8、9名ほど。どれだけ落ちつきを取り戻せてきたのか、よくわかる。

丁寧に案内してくださった順一さんにお礼を述べ、安置所を後にする。取材を終えた僕らに、瀬戸さんがゆっくりと語りかける。

「数多くの方とお別れしました。みんな悲しかったけど、生後4か月の赤ちゃんの棺を見たときは、大泣きしました。涙が止まりませんでした。『こないな小さな棺、世の中にあったんだ』って。

また、あるお母さんは、息子さんのご遺体に『私が産んだから、顔見ればわかる』って言うんです。見てもわからないから歯型やDNA鑑定をしている。んでも、『見ればわかる』って言う。やっぱり、泣けるね」

瀬戸公美子さん

瀬戸公美子さん

瀬戸さんは、とても情の厚い方だと思う。順一さんと話をしている間も、彼女は静かに、大粒の涙を流していた。

瀬戸さんの業務も、11月で終わる。だが、彼女の「復興活動」は、まだまだ終わらない。

「遺体安置所では、子ども亡くした親や、親を亡くした子どもをたくさん見ました。みんな大変だけど、ちゃっこい子どもが一番かわいそう。突然、父ちゃん母ちゃんがいなくなる、一番大切な存在が亡くなった。復興しても、家族は戻ってこないんです。

これまで8か月、いろんな人たちが来て、毛布だ、食べ物だって支援してもらいました。これからは、ここにいる人が、腹をくくって声を出すことが必要だと思っています。

親を亡くした子どもたちを、十数年ってスパンで支えていかなくちゃいけない。子どもたちが上を向くために必要な環境を、作っていかなくてはならない。少しの間来てボランティアしてパッと帰るんでない、10年っていうスパンで、ああでもねえ、こうでもねえって、その子たちとかかわってほしい。
難しい教育ではない。『私たちはあんたとこ、ちゃんと見守ってるんだよ、案じてるんだよ』って伝えていくことが、やっぱり大事だと思う。

でも、まずはとっかえひっかえ、全国から見に来てほしい。興味本位でいいから見に来てほしい。まずは来てくれたらいいちゃ、見てくれたらいいっちゃ。そのあと、支援するかしないかはあんたたちが決めてくれればいい。取材に来てもらったのも、まずはメディアを通じて、多くの人に見てほしかったから。私たちも、これから自分たちでもっと声を上げていくから、声が届いたら返してほしい。長い時間が必要ですからね」

瀬戸さんが遺体安置所の業務を通じて感じたことは、この災害で生まれたとてつもない悲しみを決して忘れないという強い「誓い」だ。だからこそ、メディアを通じて、他の人たちとも同じ「誓い」を抱いてほしい。それが、瀬戸さんが僕らを石巻に招いた理由だった。

このような悲しい思いを繰り返さずにすむ、災害に強く、不幸を生みにくい社会をつくっていきたい。遺体安置所の光景は、そうした「誓い」を、見る者に刻み込む。深く、強く。

※11月15日発売 週刊SPA!本誌『週刊チキーーダ!」では今回の取材後の荻上と飯田の対談も掲載

【荻上チキ】
1981年生まれ。評論家。
メールマガジン『αシノドス』 編集長(http://synodos.jp/)。ニュース探求ラジオ『Dig』 にて水曜パーソナリティを務める(http://www.tbsradio.jp/dig/)。著書に『ウェブ炎上』『社会的な身体』『セックスメディア30年史』『検証 東日本大震災の流言・デマ』など、共著に『ダメ情報の見分けかた―メディアと幸福につきあうために』など、編著に『もうダマされないための「科学」講義』など。BLOG:http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/

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