なぜ“たった1件のクレーム”が力を持ってしまうのか?

檄

会田氏のタンブラーより

 現代美術家・会田誠氏が、美術館サイドから展示作品の撤去要請を受けた件は、ネットでも大きな話題となっている。

 会田氏は自身のタンブラーでコトの仔細と自身のスタンスを発表(http://m-aida.tumblr.com/)。美術館サイドの動きが注目されるが、驚くべきは、美術館に寄せられた「クレーム」がたった1件だったということ。

 なぜ、1件の“要請”が力を持つのか?

 2014年春、全日空やキリンの缶チューハイのCMが中止となり、ファミリーマートのフォアグラ弁当が販売中止になり、日テレドラマ『明日、ママがいない』のスポンサー問題が起きた際、劇作家の鴻上尚史は、週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」でこんなコラムを寄せている。

◆「クレーマー」と中途半端に壊れた社会

 キリンの缶チューハイの場合は、カエルの着ぐるみを着たキャラクターが俳優の大沢たかおさんとやり取りをするCMです。中止の理由は「アルコール問題を扱う団体から、未成年者の関心を引き飲酒に誘導しかねない、などといった指摘を受けた」からだそうです。

『フォアグラ弁当』に関しては、「消費者からフォアグラの生産法は残酷で、そうした食材は使わないで欲しいと指摘があった」ためだそうです。抗議は22件と書いてある記事もありました。

『明日、ママがいない』については、かなりの話題になっていますから知っている人も多いでしょう。スポンサーの一つは、自粛した理由について、「顧客から提供の是非を考えるべきだという意見が多く寄せられ、今夜、(見合わせを)判断した」と答えています。

 どうも、大変な世の中になってきました。

 まあ、キリンの缶チューハイのケースが一番、バカバカしいと感じます。「未成年者の関心を飲酒に誘導しかねない」ものはダメだという前提を受け入れたとしても、実際のCMをYouTubeで何度見ても、「このキャラクターが子供にアピールするかあ?」と疑問に思います。

 どう見ても、疲れたカエルがアンニュイな魅力を漂わせているものです。このカエルに比べたら、『黄桜のカッパさん』のほうがよっぽどかわいいんじゃないかと感じます。

 フォアグラ弁当に関しては、僕はクレームが22件という数字をちゃんと書いているニュースを評価します。全日空の記事もそうなんですが、「抗議が殺到」「抗議の声が多数」としか書かない記事が多すぎます。それはニュースではなく、エッセーです。

 『明日、ママがいない』のスポンサーさんに問い合わせたのは、一体何件なのかも知りたくなります。それは、「世間」ではなく「社会」を知るためには絶対に必要な手続きだからです。

 こういう抗議は、したい方はすればいいのです。僕はフォアグラは食べませんが、絶対に許せないと思っている人は抗議すればいいのです。

 じつは、『明日、ママがいない』は、僕が今、ひいひい言いながら、死にそうになってシナリオを書いている『戦力外捜査官』と同じ生田スタジオで撮影されています。なので、撮影の合間に、芦田愛菜ちゃんが休憩していたりして、この件に関してはものすごくドキドキしています。

 僕が書いた『戦力外捜査官』の第1話は、「いじめを受けた中学生が偶然手に入れた拳銃で、いじめっこの中学生を撃ち殺す」話でした。

 プロデューサーによれば、第1話のオンエアの後、「たくさんの」抗議が寄せられたそうです。プロデューサーは僕に気をつかって、それが何件あったのか黙っていてくれました。

 もちろん、書いた時点でも放送する時点でも、そういう抗議はあるだろうという腹の括り方はしています。それでも、この話は世に出す意味がある、物語としてこの展開は必要だと思うから書いたのです。

 いえ、自分の都合を主張するためにこの文章を書いているのではありません。僕は、日本人は抗議を「世間」というフィールドで受け止めてしまう傾向がある、ということを言いたいのです。

 この欄で何度も「世間」と「社会」の違いについて書きました。日本人が他人の依頼を断りにくいのは、いまだに中途半端に壊れた「世間」に生きていて、「どんなマイナスな言葉も、大きな意味では同じ『世間』に生きている人からの、巡りめぐれば、自分のためになる言葉」だと思い込んでしまうからです。

 そして、どんなクレーマーも、どこか、「世間」という「自分と関係のある共同体に生きている」と思ってしまうのです。商品を売ろうとする時、「社会」ではなく「世間」をイメージしてしまうのです。

※最新刊『この世界はあなたが思うよりはるかに広い』(扶桑社)より

この世界はあなたが思うよりはるかに広い

特定秘密保護法案や生活保護などの社会問題からカルチャー、そして、恋愛についてまで! 鴻上尚史がまなざした、2013年4月から2年間のこの国の変化の記録をまとめた1冊

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