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日本兵は友軍を食った!? グロ過ぎて話題の映画『野火』の真実

 ちぎれた手足がポンポン舞う! 噴水のように鮮血が噴き出す! 虫の湧いた腐乱死体がゴロゴロ!  ハイパーリアルな戦場シーンがグロ過ぎて話題を呼んでいる映画『野火』http://nobi-movie.com/(公開中)。  予備知識のない人にとっては「こんなムチャクチャなこと本当にあったの?」というのが率直な感想だろう。  ところがどっこい、ほぼすべてが太平洋戦争中に起こった事実なのだ。 ◆エゴイズムむき出しで行動する兵士たち

渋谷「ユーロスペース」ほか全国で上映中

 米軍が上陸し、激戦が続くフィリピン・レイテ島――。  田村一等兵(塚本晋也)は、結核が治るまで野戦病院に行ってろと上官に殴られ、野戦病院に行けば山のような負傷兵をさばく軍医に「肺病だとぉ~、原隊復帰だ!」と怒鳴られ、これを何度も繰り返しているうちにどこにも行けなくなってしまう。  結核と栄養失調のせいでフラフラの田村は、やがて食べ物を求めてジャングルの奥深くへ入り込んでいく。  その道中で田村が次々と目撃する極限状態の人間ドラマが、いわばこの映画の最大の見所である。  まず、気になるのは指揮命令系統が崩壊し、エゴイズムむき出しで行動する兵士たちの姿だろう。 「糧秣(りょうまつ=食糧のこと)を半分よこせ!」と目をギラつかせる安田(リリー・フランキー)は、さながらチンピラの兄貴分といった風情である。  この辺りの事情は、大岡昇平原作の『野火』(新潮文庫)よりも、同じ著者によるノンフィクション『レイテ戦記』(全3巻、中公文庫)に詳しく書かれている。  戦況がいよいよ悪化すると、戦える部隊は米軍に決死の攻撃を仕掛ける一方で、バラバラになった部隊の兵士たちは「遊兵」(補給が途絶えたため、戦線を離脱して実数に入らない兵士)と化して野山をさまよい、わざと他の部隊に合流せずに潜伏したり、食べ物を奪い合ったり、どんどんアナーキーになっていく状況が現われたという。  精神論を振りかざして突撃ばかりを命令し、自分だけの食べ物は確保する上官が多く、兵士たちなりの「防衛本能」という面もあった。  そして、最大のタブー「人肉嗜食(カニバリズム)」に行き着く。  これに関しては、大岡はあくまで伝聞という形で記しているが、原作では「猿の肉」という謎の干し肉として登場し、映画でも永松(森優作)がビーフジャーキー状の干し肉を田村に差し出し、「ほら、猿の肉だ」としきりに勧める。  さて、本当にこんなホラー映画も真っ青な猟奇的出来事があったのだろうか? ◆「感情がなくなる」という恐るべき地獄  当時陸軍に徴用され、フィリピンに赴いた小松真一氏の記録にはこうある。 「山では食糧がないので友軍同志が殺し合い、敵より味方の方が危い位で部下に殺された連隊長、隊長などざらにあり、友軍の肉が盛んに食われたという」(ルソン島の話) 「ここは全比島の内で一番食物に困った所で友軍同志の撃ち合い、食い合いは常識的となっていた。行本君は友軍の手榴弾で足をやられ危く食べられるところだったという。友軍の方が身近にいるだけに危険も多く始末に困ったという」(ミンダナオ) 「食い合いは常識的」という文言が衝撃的だが、小松は、「日本は余り人命を粗末にするので、終いには上の命令を聞いたら命はないと兵隊が気付いてしまった」とさらりと書く。つまり「生物としての人間」を考慮に入れない「兵站(物資などの後方支援)」の軽視が大きな原因だったのだ(以上、山本七平『日本はなぜ敗れるのか 敗因21ヵ条』角川oneテーマ21)  この歪んだ精神主義はどこか思い当たる話ではないだろうか。  誰でも飢え死にしかければ、何でも口に入れたいと思うのが普通だ。  映画では、泥だらけのタロイモにむしゃぶりつき、最後には死体を真剣に見付める田村を描く。飢餓状態というのは見た目以上にむごたらしいものなのだ。  だが、そんな「悲惨だ」とか、「かわいそうだ」とかといった人間的な感情も次第に薄れていく。  山本七平はいう。「同じように飢えれば、そういう感情はいっさいなくなる。そして本当に恐ろしい点は、この『なくなる』ということなのである」(同上)。  この「無感覚」に至るプロセスを観客にも経験させるために、冒頭の血なまぐさいグロ描写が打ち続くのであって、そのために本物と見紛うばかりの死体が必要だったのだ。グロ描写以上にエグい「無感覚」という究極の地獄まで表現した映画はそうそうないだろう。  それにしても、後日談を省いた市川昆監督による’59年版『野火』よりも、テーマに対する切り込みはパワーアップしており、敵前逃亡や上官殺害、人肉嗜食などの戦場の実態を暴いた傑作『軍旗はためく下に』(’72)よりも、さらに突っ込んだ「人間性の崩壊」という悪夢の究明に成功している。  戦後70年に相応しい戦争映画の傑作といえる。ぜひ劇場に足を運んで確認してほしい。 <文/真鍋 厚>
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