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考えが甘すぎる中国の若手起業家たち。失敗して自殺者も増加

 中国で、起業を望む若者が増加しているという。大手求人サイト『智聯招聘』が7月に行った調査では、卒業後に起業したいとする現役大学生は6.4%にのぼり、昨年から倍増したと述べた。
バイトで日本料理店に入り即パクって開店! 若者の間で起業意欲が増加するも動機は不純

起業家の講演を聞く中国の大学生たち(本文とは関係ありません)

 もともと中国人は起業意欲が旺盛で、一流企業の社員よりも零細企業の社長になることを良しとする国民性がある。だが、若者たちの間で高まる起業意欲の動機はやや不純なようだ。中国人ジャーナリストの周来友氏は話す。 「昨今の就職難に加え、両親から甘やかされて育ち、『人に使われるのが嫌』という若者が増えている。その結果、『自分で会社をつくってしまおう』という短絡的な起業が増えている。また、自分を特別な存在だと思い込んでいる人間が多く、漠然とした自信だけで突っ走ってしまう若い起業家も多い。最近、中国では若者の自殺が増加していますが、行き当たりばったりの起業に失敗して、思いつめた末の死というのも少なくないんです」  彼らが起業を目指す業種の偏りも気になる。前出の調査によると、回答者の6割が、食品のテイクアウトやデリバリーといった中食産業の企業を目指しているだ。  その理由について、上海市在住のビジネスコンサルタント・瀧直人さん(仮名・38歳)はこう言う。 「飲食デリバリーサイト『ウーラマ』の大成功が影響しているんでしょう。提携する複数のレストランのデリバリーを注文できるこのサイトは、7年ほど前に上海交通大学の院生が立ち上げたもので、今や飲食デリバリー業界のトップになった。今年30歳になる創業者の総資産はすでに20億円ともいわれ、羨望の的となるのも無理はないのですが、同業界はすでに飽和状態ですからね……勝てるはずがない」  憧れや模倣ばかりでは、ビジネスで成功を掴むことはできまい。広東省仏山市で貿易業を営む林田岳男さん(仮名・50歳)も、考えが甘すぎる若手起業家たちを何人も見てきたという。 「キャバクラのホステスでありがちなのがアパレル小売業。当の本人たちはダサくて、ファッションセンスもないのに、ネット店舗を開店しただけですぐに客がつくと思っている。また、自分たちの理想の収入を先に設定し、そこから逆算して利益を乗っけるので、価格設定もメチャクチャ。こんな調子だから、すぐ潰れるのですが、開店資金もどうせどっかの男に出してもらっているので、痛くも痒くもないようです。日本人駐在員も何人か“被害”に遭ってます」  上海市内で日本料理店を営む津森隆さん(仮名・45歳)も話す。 「バイトで入ってきて、1か月くらいしたら辞め、すぐに見かけだけパクった店を開店する若い中国人がたまにいる。日本食もろくに食べたことがなかったにもかかわらず、たった1か月、厨房を覗いただけで日本料理店を始めるのだから、うまくいくはずがない。コックも雇わず、日系スーパーで売ってる和食のお惣菜を買い込み、5倍の値段で店に出していたヤツもいました。後先考えず、『とりあえずやってみる』という気概だけは見習いたいですが……(苦笑)」  アリババのジャック・マーのような天才的経営者も輩出している中国だが、彼らの成功は、その1億倍ほどの失敗の上に成り立っているようだ。 <取材・文/奥窪優木> 週刊SPA!連載 【中華人民毒報】 行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

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