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「中国経済は八方塞がり」そのヤバさ具合とは?

連載13【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】 国威発揚の軍事パレードの中、なぜか浮かない表情の国家主席  3日、中国で大規模な軍事パレードが行われました。習近平国家主席は、さぞかし自慢気げかと思いきや、顔面は蒼白、痩せこけた印象を受けました。「抗日戦争勝利70年」なるものがさすがに真っ赤なウソなので、いつ人民にバレるかヒヤヒヤしていたのでしょうか。  いえ、違います。習国家主席の心中が穏やかでないのは、経済危機の炎が鎮火できないからに違いありません。人民にとって抗日戦争の正邪などどうでもよいことです。  中国共産党の命綱は経済成長率にあります。貧富の差が激しく、政治腐敗が蔓延し、毎年10万件の暴動が起こっていると言われる中国が、それでもなんとか持っているのは、すべて高い経済成長のおかげなのです。  もし、中国の経済成長がストップしたらどうなるか……人民の不満は爆発し、またしても革命が起きるでしょう。軍事パレードに参加した約1万2000人の兵士が、いつ自分に牙を剥くかわからないのです。血の気が引いて当然かと思います。 八方塞がりの中国経済  さて、その懸念の中国経済ですが、株価の下落が止まりません。6月には5200ポイントもあった上海総合指数も3000ポイントを割り込むまで下落してしまいました。  中国当局は景気を立て直すため、慌てて金利の引き下げを行ったものの、株価は思うように回復していません。  なぜか? 普通は金利を引き下げると、企業の資金調達コストが減少するため、企業がお金を借りやすくなり、景気はよくなるはずなのですが、中国は例外だからです。  というのも、中国は管理フロート制を採用し、為替を固定しています。人民元を売ったり買ったりして為替レートをコントロールしているのですが、金利の引き下げを行った場合、人民元のレートは下落します。金利が下がると得られる利息が減るので投資家は人民元を手放すからです。  一方、中国当局は金利の引き下げと同時に、人民元が安くなりすぎないように手持ちのドルを売り、人民元を買わねばなりません。  中国当局が人民元を買う。これは中国国内に流通する人民元が少なくなることを意味します。お金が少なくなればそれだけ企業が金融機関からお金を借りにくくなり、先ほど説明した金利の引き下げと逆の「投資の抑制」の効果が発生してしまうのです。  つまり、アクセルとブレーキを同時に踏むようなもので、景気回復には効果薄。株価が反応しないのも当然です。  他国が景気対策として当然のように実施する金利政策。それを為替固定政策によって縛っている中国経済はまさに八方塞がりです。打つ手がありません。 いっそ人民元安にしてしまえばいいのでは?  円安のように、人民元安になれば、「海外で中国製品が安くなって売れる」。いっそのこと為替の固定をやめて人民元安にしてしまえばいいのでは? と、思われるかもしれませんが、そうはいきません。中国に投資した外資企業から見ると人民元安は手放しで喜べないからです。  外資企業による中国への投資は中国から見ると借金です。もし、人民元が暴落し元の価値が大きく低下すれば、中国は外資企業に対して借金を返済できなくなる可能性があります。  そうなれば、外資企業はリスク回避のために、その多くが中国から撤退してしまうでしょう。中国は外資の企業誘致と、技術のパクリで成り立っている国です。外資企業がいなくなれば何もできません。  つまり海外に売るものがなければ、人民元安は意味がないのです。あるのはリスクだけです。  だから、中国当局はこれ以上人民元を切り下げたくない。でも金融政策を採らなければ、景気の失速は免れない。しかし、金融政策をすると人民元が安くなる……中国経済は完全にジレンマに陥っています。  一方で、日本は海外から企業を誘致しているわけではありません。自動車などの自前の基幹産業があるので、円安はそのまま国際競争力の強化につながり、メリットとなります。中国とは経済の成り立ちが違うのです。  では、金融政策がダメなら、財政出動によって景気を支えるしかない、となるわけですが、すでに中国はリーマンショック後に大規模な財政出動を実施しています。  これが今日の過剰な不動産投資を誘発し株式バブルを招いてしまったのですから、さらなる財政支出拡大はまた別のバブルをつくるだけになるでしょう。  もはや、中国経済に打つ手なし。さながら操縦不能になった航空機のようなもの。あとは、墜落ではなく、どこかに軟着陸してくれと願うばかりです。 打つ手があるのにやらないのは単なるバカと言われても仕方ない  中国経済は経済的にも物理的にも打つ手なしでお先真っ暗なのですが、日本経済は違います。  まず、日本は中国のように為替固定をしていません。円相場を維持するために円を買う必要がないので、金融政策はダイレクトに効きます。量的緩和をさらに拡大すれば、企業の投資は拡大し、円安によってさらに企業の国内回帰が進むでしょう。  また、現在懸念されている個人消費の低迷についても、補正予算を組み、給付金を支給するなどして底上げすることが可能です。財源についても問題ありません。日本政府は通貨防衛のためのドル資産を外貨準備として保有していますが、そのドル資産が急激な円安のため、20兆円分も増加しています。  この20兆円を取り崩せば財源は十分に確保できます(正確にはドル資産を日本銀行が買い取り、その円建ての資金を政府に供給します)。  そして最後に消費税です。今の個人消費低迷を招いた元凶は昨年の消費税増税であることは疑いようがありません。このグラフを見れば一目瞭然でしょう。 ⇒【グラフ】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=930997 民間最終消費支出の推移 消費低迷の原因である8%の税率を5%に戻せば、日本の消費が復活するのは火を見るより明らかです。最悪でも再来年の10%への増税を凍結できれば、今以上の消費の低迷は防ぐことが可能です。  ただし、これらの政策は政治的にクリアしなければならない課題があることは十分承知しています。しかし、日本は経済的、物理的にも解決策がない中国経済とはワケが違うのです。  このまま指を咥えて滅びを待ちますか?  打つ手、明確な解決策はあるのに、それでもやらないのは単なるバカだとしか言いようがありません。このまま増税して中国と一緒に沈んでしまうなんてまっぴら御免です。 まとめ ・中国は為替を固定しているため、金融政策が効かない ・財政政策もさらなるバブルを生むだけ ・一方で日本は為替を固定していないので、金融、財政どちらも効果あり ・消費の低迷もその原因である消費税を減税すれば解決する ・八方塞がりの中国とは違い、日本には打つ手がいくらでもある 【山本博一】 1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。4児のパパ
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