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小売業の常識を打ち破るヨドバシ「店内スマホ撮影OK」はどこが“英断”なのか?

 家電量販大手のヨドバシカメラが、小売業の常識を覆す“英断”に踏み切った。9月16日から全22店舗で、店内のスマホ撮影と写真のSNSへの投稿を可能にしたのだ。小売業界のタブーに斬りこむヨドバシの狙いとは?
ヨドバシカメラ

リアル店舗とネット通販「ヨドバシ.com」のオムニチャネル化をますます加速させるヨドバシカメラ

 ヨドバシは、店内でのスマートフォン利用を自由化し、店舗のディスプレイ、商品、イベントなどの撮影とSNSやブログへの投稿、商品のバーコードを利用した商品情報の確認や他社との価格比較、ユーザーレビューの閲覧など商品の比較・検討を自由に行えるようにした。  一般的に家電量販店だけでなく、小売業では店内のカメラ撮影を禁止していることが多い。価格や売り場づくりの情報などが競合に漏れたり、ユーザーが店頭で商品をチェックして、他のネット通販から購入する「ショールーミング」を警戒するからだ。フランスの小売店カルフールや、ドイツの家電量販大手メディア・マルクトといった海外の小売業でも、同様に店内の撮影は禁止されている。家電量販店のほとんどで禁止される行為がなぜ可能になったのだろうか? 「以前から、店内でスマホが使いづらいというご指摘がお客様からありました。価格は店に来ればわかりますし、価格の比較やショールーミングはこれからの時代においては仕方ないことです。どうせ比較されるのであれば、それを促進して便利で快適なお買い物を楽しんでいただこうと。SNSで拡散して店頭での驚きや感動を共有してもらいたいですね」(ヨドバシAkibaの店頭スタッフ)  SNSでの拡散は、品揃えや店舗の魅力を世間へ伝える手段ともなるだろう。  また、月末になるとスマホユーザーを苦しめる速度制限にあっていても安心だ。同社は誰でも無料で利用できるWi-Fiスポット「ヨドバシ フリーWi-Fi」を全店舗でスタートし、快適なネット環境を自ら提供する。店内でスマホやタブレットのWi-Fi機能をオンにして、SSID「Yodobashi_Free_Wi-Fi」に接続し、利用規約に同意すれば登録や申し込み不要で利用可能だ。  家電量販大手5社の他社スタッフは、今回のヨドバシカメラの決断をどう感じているのだろうか? 全国に展開する量販店スタッフに話を聞くことができた。「基本的に店内の撮影は禁止ですね。まず一番に価格調査対策です。今回の決断は小売業界にとって諸刃の剣であることは間違いないので、ある意味すごい」  ヨドバシは、提供している各種オムニチャネル対応サービスで、ネットと店舗のサービスをほぼ完全に統合したことから今回の措置に至った。この店内スマホ撮影OKのインパクトは家電量販店だけにとどまらない。シャープの公式ツイッターでも「この英断われわれ界隈ではけっこうなインパクト」と評価している。  リアル店舗と通販サイト「ヨドバシ.com」のサービスを統合するオムニチャネル化をますます加速させるヨドバシは「今後も店舗での新しいショッピングスタイルを楽しんでもらえるようサービス拡充に努める」としている。店舗とネットでの全国即日配達や他店との価格比較の推奨、そして今回の店内スマホ撮影の解禁が、今後どういったインパクトを小売業界に与えていくのだろうか。  現在ヨドバシは、川崎市にある稼働中の物流センター横に施設を増築し、アマゾン国内最大の「小田原フルフィルメントセンター」の延べ床面積20万平方メートルを上回る、24万平方メートルの巨大施設を2年後に完成させる予定だ。ヨドバシが打倒アマゾンを掲げ、ネット通販に本気なのは間違いないだろう。 <取材・文/北村篤裕>
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