46歳のバツイチおじさんが世界一周の旅に出る理由 【第1話】

 英語も喋れないのにたった一人で世界一周の旅に出る「46歳のバツイチおじさん」によるズンドコ旅行記が今回からスタート。日刊SPA!では、この模様を連載形式でお届けしていきます。まずは、旅のイントロダクションとして、「なぜ46歳のおじさんが仕事を辞めてまで世界一周の旅に出ようと思ったか」を2回にわたってお送りします。

46歳のバツイチおじさんが世界一周の旅に出る理由【第1話 46歳のおじさんが世界一周の旅に出る理由(前篇)】

晴天の霹靂だった。

「ねぇ、あんた、わかってるよね」

2015年3月。45歳の俺、39歳の妻。

「ここに判子だけ押してくれればいいから」

結婚して8年目の俺たち夫婦には子供がいない。

テレビディレクターである俺は、家庭を顧みず狂気じみた勢いで仕事に集中していた。
なぜ? なんでそこまで?
番組作りにはそこまでのめり込んでしまうほどの物の怪がいる。
常に世の中を観察し、時代と共に寄り添わなければならない。
テレビ業界の人は言った。
「後藤さんキチガイだよ」
キチガイという言葉は業界人の褒め言葉。そんな言葉に酔っていた。
そして、その言葉の影に隠れていたもの――。

妻のさみしさに気づいてやれなかった。

小さな制作会社を経営していた。
俺が演出家で妻が経理と総務。
二人でなんとか切り盛りして、会社も8年目。

ずっと影で支えてくれてきた妻からの三行半。
女の別れの言葉には覚悟があった。
離婚の書類は完璧。

3ヶ月の別居後、妻にもう一度離婚届にハンコを押すように迫られた。
もうどうしようもないとこまで来ている。
ぶるぶる震えながら、自分の名前を書いた。

妻「何それ?」
俺「え?」
妻「離婚届の後藤隆一郎の文字が青いよ」
俺「あ、三色ボールペンの青で書いた」

書き終わって初めて気づく、三色ボールペンというミステイク。
何をやってるんだ俺は……。

妻の文字は黒くて綺麗。
後藤隆一郎は青文字で下手な文字。
チグハグな感じが二人の関係を物語っていた。

俺「青で書いた。……ってことは、無効かな」
妻「青でも役所は大丈夫」
俺「いや、おかしいって。青だよ。最後の文字が青だとおかしいって」
妻「……大丈夫。これ、出しとくね」

妻は冷静だった。
これがテレビに人生をかけた男の顛末である。
世の中を笑わせる? 楽しませる? ははははははは。
目の前の妻の気持ちがわからない。
自分のことしか見えてない。
そんな奴の創るものに価値などあるのか?

45歳の7月、俺は離婚届にハンコを押した。

それから一週間後、7月22日に役所から離婚通知書が届いた。

自信を失った。
何もする気が起きない。
離婚のダメージはボディーブローのように効いてくる。
あの日の残像が何度も脳裏をよぎる。
別れ際の妻の涙。
なんで?
酒を飲み、荒れた。
立ち上がることができなくなった。

46歳のバツイチおじさんが世界一周の旅に出る理由8月は年末年始特番のための企画をブレストし、
本も企画書を書かなければならない大切な時期。
年末年始の特番が面白く視聴率が良ければ、
次の春のレギュラー番組を獲得するチャンスである。
毎年、放送作家と鬼のように打ち合わせをし、
企画書を提出する夏合宿を続けていた。
だけど、今はまったく創作意欲が湧かない。

「大切な人を悲しませる男に、人様を楽しませるモノを作る価値はない」

「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」から始まった俺のテレビ業界。
あの「カッパが出た!探索してみよう」のようなシュールな笑いが好きだった。
「トリビアの泉」をやってたときも、毎日24時間、
雑学と笑いを追い求め、テレビのことだけを考え続けた。
テレビディレクターという職業は20年以上。
人生で一番長くやり続けたこと。

それは、唯一のアイデンティティーだった。
そんな俺が、企画書を書くのをやめた。
自分に元気がないのに世の中の人を元気にさせる自信がない。

「おれ、だれ?」

心の声が話しかけてきた。

「きみ、なにもの?」

自分探し? する? ベタに?
あれこれ悩んでもしょうがない。
こんな時は取材だ!
いろんな人に聞いて回った。

「俺を、漢字一文字で表すと何?」

俺は俺が何者なのか知るために、
カメラを片手に俺にまつわる取材を開始した。

⇒次回『「世界を旅して花嫁を探す」――46歳のバツイチおじさんは英語も喋れないのに本気でそう思い立った』

●後藤隆一郎(ごとうりゅういちろう)
後藤隆一郎IVSテレビ制作(株)のADとして「天才たけしの元気が出るテレビ!」(日本テレビ)の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」「トリビアの泉」など数々の番組制作に携わる。現在はディレクターを休業し、「大体1年ぐらい」という期間限定で花嫁探しの旅に一人で挑戦中。バツイチ、46歳、通称ごっつ。

― 英語力ゼロの46歳バツイチおじさんが挑む「世界一周 花嫁探しの旅」―

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