ホメられたい願望と物欲は画面の中で解消される――連続投資小説「おかねのかみさま」

みなさまこんにゃちわ大川です。
連続投資小説『おかねのかみさま』。

8回目、まいります。

※⇒前回「どうせ冬のあとは春がくるんでしょ?」


〈第8回 ウェーイ〉

「えぇ。そこまでがんばらなくてもいいかーと思う人が増えるということは、それだけいろんな企業の存在が無駄になってしまうということなんです。車に限らず、国内ブランドの高級アパレルなんかもそうでしょう」

「どうしてそうなったんですか?」

「原因はいろいろありますが、ひとつだけいえるのは、人間は無意識のうちに合理的なものを求め続けるからです。ラクだったり、安かったり、原因はいろいろありますが、その時の気分でお金を払います。手にはいるものがまったく同じなら、コストが安いほうを選ぶのは当然で、それが商品のリプレイスを産み、新しいほうの商品を提供できない企業は滅びていく。それだけです」

「でもね、かみさま。それって昔から行われてた競争と何が違うんですか?」

「あー。いいこと言う。ムカつく」
「なんでよ」

「あのですね。今回のリプレイスがいままでと大きく異なるのは、2つの側面があるんです」

「2つの側面…?」

※   ※   ※   ※

「はい」

「教えてください!」
「なんでも頼めば教えてもらえると思ってるから、世の中に掠め取られるんです」

「けち」

「ユトリ」

「!!!」

「マァマァ…」

「死神さん!どっちの味方だよ!」

「けんたくん、ツッコミが乱雑です」

「…」

「よろしい。ひとつだけ教えましょう。今回のリプレイスが従来の競争と異なるのは需要を叶えるためのコストダウンが豪快だからです」

「むんずかしー」

「だよねー。かんたんに説明します。300万円の車を買うことのメリットって、どんなことがありますか?」

「くるま、えー、っと、寒くないとか、速いとか、友達とどっか行けるとかかな。あ、あとさっきの例で言うと、彼女できたりする人もいるかもしれません」

「そうですね。ザックリしてるのが逆にリアルです」

「ありがとうございます」

「じゃあ、例えば、ケンタくんがそれらのメリットを叶えるために、300万円払いますか?」
「いやー、むり。家にいたらいいもん」

「友達は?」
「TwitterとかLINEとかでいつもしゃべってるし、別にお金かかりません。あ」

「そう。その感じ。個人間のコミュニケーションができる前までは、車のライバルは車だったんです。ずっと。少なくとも電話機ではなかった。だけどいま、ケンタくんの持っているスマホとこの部屋で、ケンタくんなりの幸せが叶うんだとしたら、300万円わざわざ払いますか」

「払いませんね。ぜったい」

「じゃあ月々1万円だったら?」
「うーん。ちょっと考えるけど、駐車場代もかかるし…」

「死神さんがドライブに行きたがったら?」
「それ自体怪しみます」
「チッ」

「これが今回のリプレイスの大きな特徴のひとつです。高額商品というものは、人々の達成感や、『なりたい自分』に対する提案として長い間君臨してきましたが、最近の若者たちに対してはそこまでの魅力を持っていません」

「なんでですかね」
「ウンウン」

「画面の中で、もっと安易にホメてもらえるからです」
「画面の中で?」

「いままでは、ホメてもらうために車を買ったり、マフラーを交換したり、スポイラーをつけたり、車高調入れたり、ROMチューンしたり、それでもホメてもらえない場合には最高速にチャレンジしたり、年4回もオービスに撮られたり、本当に大変だったんです」

「は、はい」

「あくまで一例ですが」

「はい」

「ところがこういうコミュニケーションが、大黒ふ頭じゃなくて画面の中で、全国の同類と一気に共有できる。しかも実際に車を買う必要はなくて、すべて画面で完結する。そんなことが、あらゆるジャンルでぐいぐい進んでいるのが今回の特徴です」

「はー」

「つまり、人間の欲求に直結したイベントを、サービス運営側が好きなようにデザインできる。これはもう学習や講釈が必ずつきまとうモノマニアの世界とは明確に対象の大きさが異なります」

「しつもん」
「はいケンタくん」

「ゲームとかもそうですか?」

「そうですね。ゲームの場合はユーザー同士の共依存を引き起こすこともありますから、単なるコミュニケーションよりもずっと根が深いものになりがちです」

「たのしそうでいいじゃないですか」

「まぁね。だけどお金使わなくなるのはわかるでしょ」
「そうですねー。ゲームに課金したところで、車ほど注ぎ込む人って本当に少ないですもんね」

「そうなんです。100万人が100万円のローンを組んででも欲しくなるものや、1000万人が10万円払ってでも欲しくなるものを作るのが日本企業の勝ちパターンだったんですが、画面の中で『欲しいエネルギー』を解消されちゃうと、わざわざお金払わなくなっちゃいますからね。ということでこれがひとつめの側面でした」

「ありがとうございます。よーくわかりました。じゃあ、スマホゲームの会社の株買えばいいんですかね」

「あれ?」
「はい?」

「2つめ気にならないの?」
「はい。もういっぱいいっぱいなので」

「ンモー」

「まぁいいでしょう。そのうちまた知りたくなったら教えます」
「はい!じゃあ、どの株買うか、死神さんと相談してみます!」

「え、あ、うん。わかりました。慎重にね」
「はい!!!」

「じゃあ今日は帰りまーす」

「ありがとうございましたっ!!!…よーし、すごい株みつけるぞー。ゲームだ。これからはスマホだ。お!いきなり!この株4400円!100株買える!死神さん、どうかな!」

「カイ」

「よし!買い!あとは上がるのを待つだけだ!」

「ウェーイ」

次回へつづく

【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。

Twitterアカウント
https://twitter.com/daiokawa

2011年創刊メルマガ《頻繁》
http://www.mag2.com/m/0001289496.html

「大井戸塾」
http://hilltop.academy/
井戸実氏とともに運営している起業塾

〈イラスト/松原ひろみ〉

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