おしっこを舐めるな!

 皆さんは、うんこばっかりに目が行って、
おしっこを舐めすぎてはいなくはないか?

 私は正直、舐めていた。

 先日、名古屋出張で終電に乗り遅れてしまい、
早朝7時40分の新幹線に飛び乗った。

 中は、まっとうな仕事に向かうビジネスマンでいっぱいだった。

 自由席のチケットしか持っていなかった私は、
海千山千の彼ら彼女らとの席取り合戦にあっさり敗れ、
車両の最後部座席のすき間に座って、
うたた寝をしていた。

 地べたに直接座っていたのでお尻あたりが冷えたのか、
新横浜駅を過ぎたころ不意な尿意に襲われた。

 ぷしゅーとドアが開いた瞬間、
車両連結部のトイレのほうを覗いてみると、
トイレの前は、やはり席取り合戦であぶれた人たちで
ごった返していて、 
それをかき分けトイレに向かう気力もなく、
せっかくのすき間席を他人に取られるのも嫌だったので、

まあ、おしっこだからいっか……

と、我慢することにした。

 ところが、

「まもなく品川駅に到着します」

の車内アナウンスが流れたころである。

 尿意は急激にMAX近くまで達し、
頭の芯がぼーっと熱くなってきた。

 あわててトイレに行こうとするが、
通路は降車を待つ乗客で塞がっており、
とてもじゃないけど前に進める状態ではない。

 しょうがないので、降りてから駅構内のトイレで用を足そうとするが、
品川駅のトイレは新幹線のプラットフォームから、
けっこうな距離がある。

 まず第一の関門として一階上に上がらねばならないのだ。

 階段で上がるかエスカレーターで上がるかで大いに迷ったが、
結局、

あまり膀胱を揺らさないほうがいいのでは?

という判断で、エスカレーターで上がることにした。

 でも、その判断は間違っていた。

 エスカレーターの幅は人一人分しかなく、
出張をするようなエリートビジネスマンは、やっぱり
気持ちに余裕があるのか、
あわただしく動く階段を駆け上るなんて真似はしない。
みんな、じーっと突っ立っているのだ。

 猛烈な殺意をおぼえる。

 もし、ナイフとかをポケットに忍ばせていたら、
前のビジネスマンの背中に突き刺していたかもしれない。
もはや静止したまんまではいられないので、
同じ段上で足踏みを繰り返す。
まるで、行進を待つ兵士のようだ。

 エスカレーターを登り切ると、一目散にトイレへと走る。

 全力疾走、といきたかったが、
膀胱への影響を無視するのも命取り。
そこらへんのさじ加減がデリケートなところだ。

 やっとの思いでトイレの前にたどり着くと、
絶望的な気持ちになった。

 なんと、10人以上ものおしっこ難民で列ができている。

 自然と中国拳法でいう猫足立ち
もっと極端な内股のポーズを取っている。

 別にしたからといって、
どんな影響があるわけでもないのに、
両手で股間を押さえていた。

 おしっこを我慢する人

をパントマイムで演じるなら、
おそらくもっとも定番の振り付けなんだろう。

 顔面中が酢蛸みたいに真っ赤になって
額からは脂汗がにじんでいる、に違いない。

 足を動かし続けていないと、もうダメだ。

 両膝をくっつけて、それを支点に膝から下を交互に回転させる要領のタップを踏む。

 ぱすっぱすっぱすっという足音に気づいてか、
前に並んでいるおじちゃんが、私に声をかけてきた。
 もしかすると、無意識のうちにふ〜んふ〜んと唸っていたのかもしれない。

「にいちゃん、ガマンできひんのんか?」

「はあ、ち、ちょっと……」

 こう返事を絞り出すのが精一杯だった。

「すんません! 
このにいちゃんがガマンできひんみたいやから
先行かしたってくれません?」

 そう。おじちゃんが大声で助け船を出してくれたのだ。

 次に空いた便器を所有できる順番だったはずの、
30代のサラリーマンの方が、

「どうぞ……」

と、手招きをしながら私に便器を譲ってくれた。

「あ、ありがとうございます!」

 つま先立ちでそこまで小走りする私のチャックはすでに全開で、
パンツの中でもつれたチンコをまさぐり出す。

じょんじょろじょ〜〜〜〜〜〜…………。

 間一髪。

 膀胱と大腸との容量の違いなのか、
臨界点に達してからのパニックぶりは、
うんこの比じゃない。

 しかも、漏らしたら最後、液体なだけに
あっという間にズボン中を濡らし、誤魔化しもきかない。

 年のせいか、ここ数年で急速に
尿道の締まりも悪くなった気がする。

 私はおしっこを舐めすぎていた。

ここで名古屋から品川まで、ずっと座っていた。

2011.12.12 |  4件のコメント

PROFILE

山田ゴメス
山田ゴメス
1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)など
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
OL、学生、フリーター、キャバ嬢……1000人以上のナマの声からあぶり出された、オヤジらしく「モテる」話し方のマナーとコツを教えます

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