山田ゴメスの俺の恋を笑うな
走れゴメス(上)
私が夜、ある友人の家へ遊びに行ったときの話だ。
ちょっとした相談事があるということで、私は彼の家に急いで向かっていた。
その日、私は別の飲み会にも顔を出してきた後で、最寄りの駅に着いた頃は、すでに午後の11時を過ぎていた。
友人の家は駅から延びる真っすぐの道沿いにあって、わかりやすいのだが、徒歩だと15分はかかってしまう、距離的には微妙な場所だった。
最終のバスがなくなったのか、駅前ロータリーのタクシー乗り場には行列ができている。
酔い醒ましにいいか、
と歩いて行くことにした。しかし、まもなくこの安易な選択を私は、また後悔することになる。
駅を離れて7分くらい経ったあたりだろうか。私は急激に、猛烈に便意をもよおした。
駅に戻ってするべきか、友人の家まで行ってさせてもらうべきか?
判断に迷う地点である。周囲にコンビニなどは見当たらない。10歩進んで、
今度は友人の家まで行ってしまおう!
という結論に至った。万一お漏らししてしまった場合、人が多くて明るい駅側より、人通りが少なくてポツリポツリとしか街灯もなく薄暗い友人宅方面のほうがマシと考えたからだ。
肛門を引き締めつつ歩調の速度を高める。競歩と同じくらいの速さだろう。
気を紛らわせようと煙草を吸ってみるが、煙草には便通を促す作用があるのか、逆効果だった。
緊急事態と小康状態が交互に私を襲う。
そのサイクルが徐々に短くなっていく。
レベル4の危険信号が、私の脳内で点滅をはじめる。
駅から12分あたりの地点だった。残り3分を2分に縮めようと、走ることにした。小康状態は、すでにない。
もし、ここにトイレがあれば寿命が1年縮んでもかまいません……!
と神に祈り、やみくもに走る。だが、当然の事ながら、神などいない。
走れ! ゴメス!!
こう何度も自分を励まし、遮二無二走る。
アパート二階にある友人宅の灯りが見えてきた……とほぼ同時にプヒ、と尻が絶望の音を鳴らす。
肛門の周辺は、あきらかにウエットだ。今日の飲み会は焼き肉だった。私は肉にあまり火を通さず、ほとんど生焼けの状態で口に運んでしまう。マッコリも、しこたま飲む。たから私は焼肉屋に行けば決まって腹がゆるくなる。
被害はまだパンツだけだ……。
希望を捨てず、私は走り続ける。
アパートのエントランスにゴールする。
間に合った! もお大丈夫だ!!
と階段を上がろうとしたとき、迂闊にも括約筋が弛緩した。
(つづく)
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