武井の英断

 武井咲の記者会見に行ってきた。

 なにやら緊急の発表があるらしい。

 都内の老舗ホテルの
中くらいの規模の宴会場を
貸し切った記者会見の会場内は、
テレビや新聞、雑誌から派遣されてきた
カメラマンや記者で溢れかえっている。

 すでに会見開始の予定時間を
かなり過ぎているのに、
主人公は、現れない。

 場内の空気がピリピリし始める。

「武井はまだか〜っ!」
「早く武井を出せ〜っ!」

 あちこちから怒号が飛び交う。

 それから30分も経ったころだろうか、
ようやく武井が登場する。

「いったい、
どんな緊急の報告が
飛び出すのだろう?」

 固唾をのむマスコミ関係者たちの視線が
いっせいにステージの中央に集まっている。

 そんな、しんとした記者席を
ひととおり見渡してから、
すーっと目を閉じながら深く息を吸い、
武井は思わせぶりに口を開く。

「本日から
私、武井は
下の名前の読み方を
エミからサキに
改名します!」

「おおっ!」

と野太い声のどよめきが起こる。

 今日の一面に間に合わそうと
携帯電話を耳に当てながら
急いでその場を走り去る
記者も、多くいる。

「改名の理由を教えてください!」

と、一人の記者が挙手をしてから
質問を投げかける。

「いつまでたっても皆さん、
私の名前をサキとしか
読んでくれないので、
それなら、いっそのこと
サキにしちゃったほうが
いいのでは、
と考え、思い切って
改名しました」

と、ホンのちょっぴり照れを
まじえながら答える武井。

 なんという素晴らしい大英断!

「前からそのほうが絶対いいと思ってました」

と、どうしても一声かけてあげたくて、
人混みを掻き分けながら、
私はステージ上へと、にじり寄る。

「止まってください!」

 慌てて飛び出してくる複数の警備員。

 アメンボウのようなかたちで
取り押さえられて、
身動きのできない私は、
最後の力を振り絞りながら、
また叫ぶ。

「前からそのほうが絶対いいと思ってました……」

というところで目が覚めた

 それにしても武井咲って、
近頃やたらオバハン臭く
なっちゃいましたよね?

 動きすぎるとダメなタイプなのかもしれない。

PROFILE

山田ゴメス
山田ゴメス
1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)など
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
OL、学生、フリーター、キャバ嬢……1000人以上のナマの声からあぶり出された、オヤジらしく「モテる」話し方のマナーとコツを教えます

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