第78回

02年7月23日「涼しい映画」

・話題のフルCGアニメ『アイスエイジ』。氷河期の地球で、人間の赤ん坊を親元に運ぶために旅をするマンモス、ナマケモノ、トラ。暑さしのぎに最適の映画。

・雪と氷に埋もれた風景の中で、生き残ったほ乳類達はすごく元気に動き回る。そのふかふかといかにも温かそうな毛皮の表現が出色。触ってみたくなる。CG表現としては、その一点豪華主義が効いている。ただ、毛のない動物・人間の赤ん坊が不気味に見えて困った。

02年7月24日「最後の4割打者の最後」

・もいっこ涼しい話。大リーグ「最後の4割打者」テッド・ウィリアムズ氏の遺体を冷凍保存するのしないのというもめごとが遺族間で起きている、という報道。某週刊誌から電話で、この件についての賛否を問われた。

・結局は本人の遺志次第だと思うから賛成も反対もない。本当のところはどうだったか証拠を集めてはっきりさせればいいだけの話だ。ただ「死体を冷凍保存するという行為」については、僕は基本的に賛成する。ある特別な能力を発揮した人間について、その肉体の秘密を骨格や筋肉や脳の状態、そして遺伝子の構造等についてどんな特徴があったのか、近未来の解析技術に委ねるという考えはあっていいと思う。

・ただし、そういうことについてはもちろん、本人の生前の考えが優先される。また、遺伝子が商品化される可能性は、ある。未来の野球界にテッド・ウィリアムズのクローンをデビューさせる等、人権を無視したプロジェクトが始まる危険性も、ないとは言えない。

・さて、ウィリアムズ氏が冷凍保存されることになっていた米アリゾナ州の「アルコア延命財団」には、僕も行ったことがある。日本人ではあなたが4人目だと言われた。

02年7月29日「こういう売り方もあり」

・『ヤフーBBマガジン』の織茂さんが、『キンダーサプライズ』の商品サンプルを持ってきてくれた。ご存知チョコエッグの元祖。日本ではグリコが売ることになったらしい。グリコといえば”グリコのおまけ”。食玩の扱いなら手慣れたものだ。

・タマゴ(型のチョコ)の中からはスヌーピーのフィギュアと、そして、意味ありげな紙切れが。ここに書かれた暗証をインターネットに打ち込むと、20分間だけ、ゲームが遊べる。

・つまり、今度はチョコのおまけに、ゲームがついてくるってわけ。そういえばガーナはチョコのおまけでケータイの着メロをプレゼントしていた。これを、見方をひっくり返して、チョコのカタチを借りてネットコンテンツを売ってる、って考えてみると面白いと思う。てな話をしたらコメントを載っけてくれることになった。詳しくは『ヤフーBBマガジン』参照。

02年8月5日「喋るオンラインゲーム」

・X-boxのオンラインシステム「X-boxライブ」を見学。対応ゲームを実際に試させてもらった。多人数参加のレースゲームを、他のプレイヤーと会話しながらのプレイ。

・キーボード入力によるチャットではなく、マイクを通して声によるコミュニケーションができることがこのシステムの売り。ゲームやりながら喋るなんて恥ずかしいんじゃないかと思っていたが、実際にやってみると印象が違った。不特定の相手とだらだらお喋りするのは意外に楽しいものだ。

・チャットやBBSなど今のインターネット文化を支えている文字コミュニケーションは、回線やハードの限界ゆえに成立したフリーキーな文化だったのだ。まあ文字だけでも相当にいろんなことができたしフリーキーだからこその面白さもあったわけだけど、先入観をいったん捨て、パラダイムを変えてみることによって、新しいコミュニケーション形態が成立するかもしれない。手紙をベースにしたコミュニティーから、会話をベースにしたコミュニティーへ。

02年8月6日「脳ミソ溶けそう」

・『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』。なんといってもマイク・マイヤーズの1人4役がすごいが、パロディーも、SFXも、キャストも、何から何まで詰め込むだけ詰め込んで仕上がっている。よくぞまあネタが尽きない。これをゴージャスと見るか下品と見るか。その両方か。

・日本人には理解不能のギャグが満載だしそれをいちいち説明されても仕方がないわけで、字幕制作者は大変だったと思う。でも、アメリカ人の1/8しか笑えなかったとしても見る価値あり。ただこのシリーズのコテコテ感は関東より関西の方がぜったいウケてると思う。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。