第104回

02年2月17日「中野ブロードウェイのおいしい水」

・引き続き中野ブロードウェイの店の話。天井は結局取っぱらってガラス張りにした。上の階を人が歩くとやや気が散るが。

・それから壁の覆いも外してコンクリートを剥き出しにした。するとその一カ所から水がざばざばと噴き出していることを発見。樋とパイプでうまく外に排出されるようになっている。前の所有者が手当てしたのだろう。

・雨も降っていないのにその水はいつまでも途絶えることがない。石清水のようにきれいに見える。コップに取ると、透き通っている。思い切って、飲んでみた。うまい! 喉が洗われるような清冽な味わいである。

・聞くとこの水のもとは、20年前に降った雨水らしい。屋上のひび割れからしみこんで、建材の隙間を通って下層階までたどりつき、今ここに湧き出しているものだという。濾過されており、ミネラル分も豊富だ。この水を「中野ブロードウェイのおいしい水」として来客にはこっそり出そうと思う。

02年2月18日「また倒れる」

・激しい腹痛、それから蕁麻疹。理由は不明。まあ僕は普段からアレルギーがひどくて、飲食にはいつも不自由している。レストランに行くたびにシェフを呼んで材料について根ほり葉ほり聞かなければいけない。使用している油など、材料の産地まで確認しないと口に入れることができない(アレルギー体質じゃない人には理解できないことだろうが、生死に関わる問題なのである)。おかげで、嫌な食通と思われてしまう。

・ただし中野ブロードウェイなら点滴のパイプの届く距離に病院も揃っている。問題なく仕事を続ける。ここで書いていると、『メフィスト』連載中のご当地小説(主人公は中野ブXXドウェイ在住の探偵)が、とてもはかどる。職住近接というか、バーチャル/リアル近接の感覚である。

02年2月19日「見習わなきゃ」

・中野ブロードウェイ、今日は全館停電、全店舗休みだった。にも関わらず、『まんだらけ』だけは自家発電機持ち込んで働いている。ここにいついてわかったことだが、『まんだらけ』従業員の方々は朝早くから夜中まで本当に良く働いておられる。

・皆さん、20代くらいのはずなんだけど、仕事柄(趣味柄?)とても若く、14~15歳に見える。彼らが24時間(?)わき目もふらず真剣に働いている様は、1970年代、家出青少年の巣窟だった劇団天井桟敷を彷彿とさせる。がんばって!

02年2月21日「10年」

・『週刊ファミ通』編集部の岸本氏来社。ファミ通誌上で僕がやっている連載がちょうど10年に達したので、記念のインタビューをということ(3/21号掲載)。

・ちなみに連載が始まった1993年4/2号の表紙は裕木奈江、注目の新ハードとして特集されているのは『MARTY』『ジャガー』『3DO』である。最近ゲーム業界の再編が話題になっているが、10年前に比べると今の方がよほど安定していると思う。

・さて、以来ぴったり同じ文字数のショートショートを毎週1本、1回も落とさずに10年間続けてきた。誰もほめないので自分でほめる。僕はいいかげんで飽きっぽい奴だと思ってる向きが多いようだが大間違いなのである。他にも『BURRN!』誌の連載が10年以上休みなく続いているし、今履いているジーンズは16歳の頃に買ったものである。

・ところで来年の入稿スケジュールを確認していたら、2004年の2月は日曜が5回あることに気付いた。へぇ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。