第113回

03年4月18日「香港返還効果」

・中国映画『HERO』試写。中国戦国期の刺客達の死闘を描く。4000年の歴史と10億の人口に見合った正真正銘の超大作だ。

・人々はただただ激しく舞い戦う。数十メートル跳躍し、雨霰と降り注ぐ矢を避け、時には水の上を走る。剣を振るえば鉄を叩き切る。ワイヤーアクションのすさまじさは、もちろん香港返還効果。中国は今後、映画の世界でも大きな存在になっていくだろう。

・物語の軸となるのは、日本武士道にも通底する東洋的美学。それが説教臭くなく、とてもわかりやすく語られる。黒澤以降、日本映画に期待されつつ為し得なかった仕事である。ところでこの哲学とこの速度感、どこかで観た覚えがあると考え込み、ついに思い出した。『エル・トポ』だ。

03年4月23日「殺し合い」

・『KILLERS』試写。『殺し屋』という共通タイトルによる5話構成のオムニバス・ムービー。異業種(漫画やアニメ)のクリエーターではあるが映画監督としての実績もあるきうちかずひろ氏と押井守氏が、自主映画コンテストによって発掘された新人監督と競作している。押井監督の実写映画は低予算でも本当にスタイリッシュだ。超かっこいいヒロインはなんとニューハーフらしい。

・あまりにも稚拙なものもあるが、どの作品にもどこか一つは光るところがある。そのせいか全て見終わった後には爽快感が残る。短さの強みというものもあるのだ(たとえクソ映画でも短ければ許せるし、クソ映画を観ることは実はとても良い勉強になる)。

・ところで胸を撃たれて死んだはずが実はそこに……というパターンはいくらなんでももうナシかと思ってたら、何人もやってて驚いた。

03年4月24日「寿命延びる映画」

・青山真治監督作品『あじまぁのウタ』試写。りんけんバンドを追ったドキュメンタリー。

・レコーディングやライブの現場で、ヴォーカルの上原知子の姿を中心に1台のカメラでずーっと長回しするシーンがほとんど。それをただぶっ繋ぎにしているだけの映像が、本当に気持ちいい。体の中にすいすい入ってくる感じ。ギミックのなさが青山監督のギミックだ。

・この映画にも関係している沖縄在住の中西プロデューサーにもらった唐辛子泡盛にハマっている。ああ沖縄行きたいなあ。

2005.06.19 |  第111回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。