第169回

6月22日「書き入れ時」

・山にこもっていた。いろいろと事情があり、その間、肉と野菜しか食べられなかった。つまり今はやりの「低炭水化物ダイエット」を実行していたことになる。空腹になることもなく10日間で5キロ痩せた。確かに効果は大。

・ただしこの間にコロステロール値は10パーセント以上も上がった(193→217)。このあたり、注意した方がいいと思う。体重さえ減るのなら早死にしてもいいという人以外は。

・さて、こもっている間は主にマンガ原作に気合いを入れていた。『プラトニックチェーン』は今が「書き入れ」時。僕は絵についてはベタの手伝いも出来ない人間なので、ここから先は遠野ヤマ先生に気を送るしかないが。7月には『Gファンタジー』『少年ガンガン』『ガンガンYG』の3誌に5作品が載るので、ぜひ読み比べてみてほしい。もちろん全て別作品。7月末には単行本も3冊リリース予定。

・そしてネット連載の長編バージョン『晴れときどき女子高生』の更新頻度もアップする。何がなんだかわけがわからなくなってきた。というのは嘘で、全部、準備万端で進めてきたことである。関係者の皆様に大感謝。

・本がどんどん出ると「忙しいでしょう」と言われるが、実は企画から単行本までには数年はかかるもので、出る頃にはすっかりラクになっているものである。

6月23日「逆走」

・特にストーリー系コンテンツは(小説→)マンガ→アニメ→ゲームの順で作られていくパターンが主流なのだけど、今の時代それはおかしいと思っている。これは『プラトニックチェーン』を例にして話すとわかりやすいかもしれない。

・『プラチェ』の場合、制作準備(取材)を開始したのは1997年。ケータイがネット端末として使用され、さらにモニターやカメラが搭載されていった時、人間や世界はどう変わるか、という思考実験がとっかかりだった。

・まず最初に、新しい時代にコンピュータはどう操作されるべきかというシミュレーションからスタートした。それで、結局かなり具体的な操作系を作ってしまった。オンラインの画面上で様々な映像情報をゲームのように扱うためのインターフェイスである。僕はゲーム制作会社をやっているのでこれをPS2上に完成させ、いろいろな状況を想定し操作し改良してから、特許を申請した。この過程でゲームのプロトタイプはできてしまったわけである。もちろんこの段階で商標も出願。

・そして提携しているアシッド社では、フルCGアニメの制作が進んだ。アニメはアニメとしてシーグラフなどで評価され、地上波テレビでもオンエアーされた。

・しかるのちに、マンガの制作に入ったわけである。ゲームやアニメの制作過程でそういうケータイツールを使っている前提の世界観やキャラクターはできてしまっている。その上にマンガ業界のプロが集まって、これはこれででかなりとんがったものとして仕上がっていった。

・ここまでにずっと書き続けていた企画書を、次は小説の形式に仕上げていった。これも刊行が始まり、続いている。既に2冊出ていて、この後さらに出していく予定である。

・デジタル時代のコンテンツはこの向きの流れで育てていくことにより、作業がとてもスムーズになる。今の業界はそれが逆だからいろいろと摩擦が発生しているように思える。例えばマンガからアニメになる時にどうしても作品性が変容したりスポイルされてしまう、とか。

・そして今僕がやってる仕事はというと、10年後のためのコンテンツの仕込みなのである。それまで生きてられるかどうかなんて、考えない。

6月24日「ケータイとテレビ」

・ケータイ連動型の才能発掘テレビ番組『クリエーターズ・ライブ!』(BSi 毎週水曜25:00~)評価はまずまずらしい。めでたし。期待してますよ、というコメントをたくさん頂いている……んだけど僕は結局降りちゃいました。デジタル系情報番組の立ち上げまでを思いっきり手伝う、というパターンの仕事が多いなあ。

・僕としてはこの番組のおかげで、受像器としてのケータイの可能性に目覚めた。ケータイがデジタル放送とリンクした時、ケータイでこそ見る番組、というものがありえるはずなのだ。それが成功したらものすごく巨大なマーケットが出現するのだ! ぜひやってみたい。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。