第183回

10月5日「4年間ひきこもり→ハリウッドデビュー」

・『スカイキャプテン』試写。監督は無名の新人、ケリー・コンラン。自宅にこもってパソコン1台だけを使って4年間かけて作り上げた6分間の映像がハリウッドのプロデューサーに認められて、長編映画化が決まったといういきさつがあるらしい。

・インディーズというよりほとんどひきこもりの状態からいきなり超大作デビュー、という話が成立するということだけでも面白い。ていうかその6分間の映像がとても見たい。

・さて映像は「懐かしい未来」レトロフューチャーのオンパレード。この人は相当のSFオタクのようだ。特に1950年代のSF映画に対するオマージュが散りばめられている。飛空艇、ロボット、水陸両用戦闘機、一人用ロケットエンジン、輪っかの出てくる光線銃、巨大生物……etc.etc。

・大好きな映画の大好きなシーンをかき集めて繋ぎ合わせて仕上げているわけだ。ただし映像の全てをデジタル処理し、色調を統一するこによってばらばらのイメージに統一感を与えている。同じことを日本のSFコンテンツを使ってやったのが『キャシャーン』だよね。

10月6日「『ほしのこえ』『スキージャンプ・ペア』ヒットの秘密とは?」

・デジハリ校長の杉山さん、コミックスウェーブ社長の竹内さんと打ち合わせ。この2人と、東京国際CG映像祭でパネルディスカッションを行なう予定なのだ。

・『ほしのこえ』『スキージャンプ・ペア』それぞれの大ブレイクまでのプロセスに深くかかわった方々である。インデペンデントのスタンスで活動しているクリエーターが「どう儲けるか」この点について、きちんと考察してみたいと思っている。先の2タイトルのようにパッケージ(DVD)ソフトとしてヒットしていく道筋があればとてもわかりやすい。お二人のプロデュース活動はそれだけではなく、モバイル配信や別業界とのジョイント等、様々なプロジェクトに及んでいる。興味深い話を伺えそうだ。

10月7日「それにしてもUTADAは笑いすぎでは」

・2画面、タッチスクリーン操作、マイク入力、ワイヤレスなどの新機能で話題のニンテンドーDS(12月2日発売)の発表会。

・まず岩田聡社長からこの新ハードのコンセプトが語られた。ゲームは進化すればするほど複雑化してしまい、その世界は閉じていかざるを得なかった。ここで、初心者でもいきなり始めていきなり面白がれるようなものが必要だという思いがあった……とのこと。

・そのために、全く新しいゲーム文法を提示する必要があった。それを1タイトルとしてではなく、新しいハードとして出してきたわけだ。僕はなんと言ってもタッチスクリーン操作の採用に興奮している。これはゲームクリエーターのイマジネーションを激しく喚起するものだろう。宮本茂プロデューサー曰く、そこに新しい操作系すなわちゲームにとっての新しい動詞が生まれてくる、ということ。「撫でる」「切る」「書く」……といったものだ。

・ソフトのラインナップは、本体と同時に12タイトル。ゲームの新しい動詞を体感したかったらまずは『さわるメイドインワリオ』が良い。次々と現れては数秒でクリアしていく超ミニゲーム集『メイドインワリオ』シリーズ第4弾だが、今回はボタンを一切使わない。画面に触れて操作する。

・ワリオの背中をくりくりと「掻く」、飛んでくる野菜を空中でずばっと「切る」、マッチ棒でマッチ箱を「こする」、テストの答を見て○か×を「書く」、などなど、基本操作自体が全て、とても新しい。そして、すごく気持ちよいのである。マイク機能を使い画面内のキャラの耳元に向かって本当にフッと息を吹きかけるというものもある。

・もちろんスーパーマリオやポケモンの新作もある。それから、UTADAさんがCMで「なんだかんだ言ってコレ面白いよ」とコメントしてるのはどうやら『Nintendogs(仮)』。画面の中の犬たちに声で話しかけたり体を撫でてあげたりするとリアルに反応する。これはちょっと先の発売になる模様。

・さて僕はこのマシンは、本当は携帯ゲーム機ではないと思う。携帯機のふりをしてこのマシンを出す任天堂の真の標的は、PSPではなくプレステ2なのではないか。この話、次に続く。

2006.01.07 |  第181回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。