第208回

4月2日「『商材』としてのアニメ」

・東京国際アニメフェア2005。東京都主導で「産業としてのアニメを振興する」という明確な方向性がある、つまり非常にいさぎよいイベントである。出展する側も来訪する側も目的意識を持って参加できるところがいい。例えばコナミの新作『極上生徒会』のチラシには、ロイヤリティーのパーセンテージまできちんと明記されている。あくまでも「商材」としてアニメ作品を展示、そして国際的な商談の場としての機能を最優先にしているわけだ。アニメは天才による美術品や職人による工芸品でいいのか、もっとちゃんと商売するべきじゃないのか、という問題意識の提示でもある。

・目に付いたところでは、「NOITAMINA」というブランドを打ち立てているフジテレビ。『ハチミツとクローバー』や『パラダイスキス』がこの枠(毎週木曜24:35~)だ。深夜帯アニメを固定化したおたく層からなんとか一般層に広げようという努力である。こういう試行錯誤はいつかなんらかの形で実ると思う。

・それから最近、インデペンデントなスタンスでメジャーな作品を仕上げようと努力しているCG作家が増えている。5年後、10年後の映像産業を考えると、この人達に場を提供する形で運営される「クリエーターズワールド」もとても重要だ。

・そんな場所で、銭金でブレイクした貧乏映画監督(@処女作準備中)のギー藤田さんとばったり会って驚いた。

4月3日「石井聰亙監督の獲得したもの」

・石井聰亙監督がハイビジョンで、自主制作体制で創り上げた新作映画『鏡心』を観る。創作に煮詰まった女性映画作家(市川実和子)が、撮りかけの映画をほったらかしてバリ島に行く、というシンプルな話。こちら側の世界とあちら側の世界が、どちらもきちんとくっきりと映し出される。

・石井監督自身がカメラをかつぎ、他わずか数名のスタッフで撮ったという。そのスタイルがとても気持良かったと石井監督は言う。指揮者の必要なオーケストラではなくジャズの少人数バンドの形式で、インプロビゼーションの発生を仕掛けていったという。風景も、役者の演技も、まるでドキュメンタリーのようにリアルだが、その映像は、決して貧しくない。渋谷の街並みやバリ島の自然が、この映画のために全て計算ずくで作り上げた巨大セットのように見えるのだ。

・石井監督は、ビデオカメラで撮る映画の文法を獲得している。その技量を持ってして、計算されつくしたフィクションを、ウソのないナマの映像で作ろうと、考えたのだと思う。

4月4日「脳味噌ぐちゃぐちゃオナニーシーン最高!」

・『-less(レス)』試写。極限状況ものサスペンス・ホラー。監督は新人のジャン・バティスト・アンドレアとファブリス・カネパ。夜闇を走るクルマに同乗した夫婦とその娘、息子、そして娘の婚約者。森の中の道端で、赤ん坊を抱いた女を見つける。そこから先はなぜか同じ道から出られなくなる。ぐるぐる走り続ける家族に身の毛もよだつアクシデントがうち続き、一人また一人と惨殺されていく。

・と書くとくらーくしめったホラー映画と思われそうだけど、実際はすごくいいテンポでげらげら笑いながら観られる。一家のめんめんがどいつもこいつもボンクラで、ちっともかわいそうじゃないところがいい。緊迫のさなか息子はマスターベーションをはじめるし、お父さんは死体を枝でつんつんつついてるし、お母ちゃんも娘も浮気してたってことが発覚するし。

・スティーブン・キングやデビッド・リンチの影響を受けた世代の監督が、いい具合にフザけつつ作ったという感じ。きっとオタクなんだろうなあ。お父さん役のレイ・ワイズは、ただリンチ組だってだけで起用されたのだろう。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。