第211回

4月22日「前作ではたしか死んでた」

・『エレクトラ』試写。マーベル・コミック産の美女ファイターもので、『デアデビル』の脇役からの出世である。マーベルはこういう形式で実写キャラクターもどんどんプロデュースしていく戦略だろう。

・敵キャラは、キスで相手の生気を吸い取る美女や、全身に彫ったタトゥーの猛獣達を実体化させる魔人など。その妖術は、もちろんSFXを駆使して美しく描き出される。東洋武術をベースにしたアクションシーンは最近の香港映画・中国映画のノウハウを徹底的に研究し、取り込んでいる。

・幼少時のトラウマに悩まされ睡眠薬を常用しているなど、ヒロイン像もなかなか面白い。基本的にはニンジャ映画の系譜にあるのだが、子供向けのアクション映画ではなく、大人でも十二分に楽しめるエンターテイメントに仕上がっている。

4月25日「ハリウッドの王道」

・『サハラ』。70年代から続いているベストセラー“ダーク・ピット”シリーズからの映画化。作者のクライブ・カッスラーは自分の原作が初めて映画化された時(『レイズ・ザ・タイタニック』)、あまりの出来の悪さに絶望して、既に売っていた他の作品の映画化権をすべて買い戻し、以来20年以上ハリウッドとの関わりを断っていたという。自分でプロデュースする気にはならなかったのだろうか。

・ただし今この時点において映像化を許した理由も良くわかる。ハリウッドの大作は、投資費用とクオリティーがほぼ比例する状況になっていて、今は「作ってみてがっかり」ということがあまりないのだ。そして、SFXを駆使することによって冒険もののスペクタクル・シーンを原作とほぼ誤差のないスケールで描き出せることも保証されている。この映画化プロジェクトについては、ディズニー会長の御曹司ブレック・アイズナーが監督に抜擢された時点で製作予算だけでなく、クオリティーも保証された?わけである。

・このインフラの上に、“ダーク・ピット”は映画界でも新しいシリーズとして成立したといえる。体力だけでなく深い知識と情報収集力を駆使してのトレジャー・ハンティングは設定はインディー・ジョーンズ。砂漠の丘を爆破して砂嵐で敵のヘリを攻撃するなど、ダイナミックなアクションのアイデアは007。ただ、キャラクター性は少し弱いように思える。

4月26日「侵食されていく」

・マンガ喫茶は中野からちょっと離れた場所(東高円寺)に穴場、というかとても感じがよくてすいてるお店があってよく通っていたのだが、ある日そこが『メイドマンガ喫茶』に進化しててぶったまげた。なんでもメイド置けばいいってものか。いいってものだ。

・さて『ショコラ』PS2版のサンプルロムが届いた。ウィンドウズ版は2年前に発売された、あまりにも時代に先駆けていたメイドさんゲームだったが、今回PS2の移植にあたっては一般化を試みているようだ。ときメモ的なシミュレーションゲームのボリュームを減らし、代わりにアドベンチャーパートを増やしている。結果、読むだけですいすい進める、今ふうのノベルゲームとして仕上がっている。“萌え”が株式市場までを揺さぶっている今、かつてフリーキーな領域にあったこういう作品がどこまで一般性を獲得できるか、興味深い。

・ところで「“萌え”を意識した書籍、映像、ゲームなどの市場規模が‘03年で888億円に上る」浜銀総研のリポート、新聞やTVまで引用されまくってるけど、あれ4月1日付けだってこと、みんなわかってるよね?

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。