第224回

7月29日「『地獄甲子園』に続け!」

・『まいっちんぐマチコ!  ビギンズ』試写。あー下らない下らない。ビデオ撮影で、若いスタッフで、こういう下らない映画もどんどん作っていくべきである。ネタがなければ、70年代~80年代のマンガは下らなさの宝庫である。そして観る側も「どれくらい下らないか、いっぺん観てみよう」ってくらいの度量を持ちましょう。

・と言っておいた上で、無粋な意見も。原作マンガに忠実なハイテンションの演技が実写で展開していくわけだが、出演者は高校生役も含め結構お年をめされた方々が多く、目が笑ってないのが怖かった。そして色気がやや不足してるのは、真冬に撮影されたからかもしれない。鳥肌立ってるし、息白いし。短時間しかも屋外撮影、という事情はわかるが、こういうのは演技者のイキオイがいちばん大切なのだ。

7月30日「”ドジっ娘=若年性アルツハイマー”説」

・『私の頭の中の消しゴム』試写。日本ではもうアニメでしか表現できないような「萌え」を実写で堂々と作ってしまうのが韓国映画のパワー。例えば「天然ボケ」美少女をリアル化してしまうと、これほど残酷で美しい話になる。

・彼女をソン・イェジンが、彼をチョン・ウソンが演じる。彼女は、買った物ばかりか財布まで忘れて来てしまうほど物忘れが激しい。料理はこがしてしまうし、お弁当を作ればご飯だけ二つ包んでしまう。帰る家がわからなくなり、しまいにはおしっこを漏らして……と、どんどん加速していくドジッ娘ぶりに彼は萌えてばかりもいられなくなる。そこで病院で精密検査してもらうと、なんと若年性アルツハイマーという結果が出た。

・二人は部屋中にメモを貼りめぐらせて暮らすが、彼女は新しい記憶から順にじわじわと忘れていく。自分の歳も名前も、そして彼と二人で過ごした日々のことも。遂に最愛の人の存在すら忘れてしまう時、それが愛の終焉の瞬間なのか……。

・記憶が変容していくことによって現実がVRとなっていくというアイデアでは過去に『メメント』や『エターナル・サンシャイン』があった。ただしこの映画ではあざといギミックは意図的に抑えてある。この設定は、出会い愛し合い別れるまでのプロセスを戯画化するための仕掛けとして使われているのだ。

・つらすぎるのは苦手という方、ケンチャナヨ。エンディングはとても暖かく、救われる。最後まで見たら、きっともう一度見たくなる。

7月31日「私の頭も消しゴム頭」

・そういえば先日「果物ナイフで指を切り→消毒しとかなくちゃと潜在意識で考え→その傷口にポットから思いっきり熱湯をかけて→切り傷なんかどうでもよくなるほどの大やけど」という行動をとってしまっていた。ヤバイかも。

・かき氷ばかり食べています。ヤバイかも。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。