第268回

6月28日「ひきこもり中年のテロリズム」

・おなじみゲームラボ「三十歳のハローワーク」公式ブログ上で、メインスタッフの3名(ジャンクハンター吉田氏、ゲームラボ編集部岩田氏、と渡辺)がそれぞれ連載を始めることになった。ちゃんと続けられない人はひきこもりの中年男性のうちに「レンタルお兄さん」として泊まりにいかなくてはならないことになった。

・僕は、吐田進くんというひきこもり青年いや中年の話を書く。「ひきこもり問題を解決するためには、年寄りを全員、殺してしまうしかない」というのが彼の持論である。今1000万人を殺さなかったら、40年後この国の人口は3000万人減ってしまっている、という。

・これはテロリストの独白とも読めるかもしれない。共謀罪が成立したら引っかかりそうなので、僕の手の中でいったん小説としてまとめつつ出していこうと思う。

6月29日「企画や試作してる場合ではない」

・おなじみ「ニワンゴ」の杉本社長と、担当編集者の橋爪さんと、打ち合わせ。
ニワンゴはインターフェースもコンテンツも日々進化している。日刊で連載している渡辺のショートショート小説も好アクセスを頂いているらしいので、さらにがんばります。現行の全機種に対応するために1メールの文字数を250字以内に限定しているのだけど、これは新機種の人には面倒臭いかもしれない。うまい方法を探して、改良を図っていきたい。

・システムが落ち着いたら、従来の小説とは違う新しいものを書き下ろす予定。
実はニワンゴのフォーマットで、つまり携帯ならではの形態を思いついてしまったよ! ……ところがそれを提示するためには、そのフォーマット上で一本、作品を仕上げなければならないわけである。それにかかる時間と労力を算出して、自虐的な快感でしばし慄然としてしまった。

・ネットの世界では、出来たものはすぐに世に問える。別に誰の許可を得なくても作って良いわけだし、作ったら、その日の内にケータイに配信できるのだ。ということは、逆に、どんなにすごいアイデアでも、半端な状態のものには価値も意味もないのである。

・すなわち「企画書」とか「試作品」はいらない。そんなものを作ったりもったいぶったプレゼンテーションをやってる暇に、完成品を作って出してしまえばいいのである。この変革における省力化は、クリエイティブの世界において跋扈しているインチキな人々を一掃する。そして若い感性に大きなチャンスを与えるものである。がんばりましょう。

7月1日「流線型のエロティシズム」

・ディズニー/ピクサーの『カーズ』。ツルツルした造形物がうにゃうにゃと動き喋る有様がものすごくセクシーで、ヤバい。エロい。エロすぎる。キャラクターが男性だろうが女性だろうが、無機物だろうが有機物だろうが、関係ない。
『バンビ』に衝撃を得て何十回も劇場に通った手塚先生の気持ちが良くわかる。
この種類の欲情は、行き着く先がない。だから、キリがないのである。

・頭の悪い老人達は、ちっとも害のないアクションゲームとかを、表層的な意味だけを拠り所に規制していれば良い。本当に新しい感性は馬鹿や阿呆の手の届かないところで伸び伸びと育つだろう(写真は『カーズ』とは関係ありません)。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。