第272回

8月1日「3Dバージョンも見たい」

・『スーパーマン・リターンズ』試写。映像としては空撮SFXがキモだ。『ス
パイダーマン』シリーズが追求している”跳躍”感覚とは違う、”浮遊”感覚の快楽
に酔う。とにかく飛んで飛んで飛びまくる。海上、水面ぎりぎりを這うように。
美しい夜景を見下ろしながら。様々な形状のビルの壁面に沿って。炎が走る地下
溝の中を。そしてもちろん宇宙空間も。

・ストーリー的にも、突っ込みどころも含めて飽きず楽しめる出来映えだった。
30代や40代の人には80年代の(クリストファー・リーヴ主演の)映画シリーズ
を、50代や60代の人には50年代のテレビシリーズを、ちゃんと想起させてくれる
シーンが随所にある。それでいて、新しいシリーズとしてのネタ振りもきっち
り、こなしている。2時間34分の長さは必然であろう。

・かつてスーパーマンは、地球人とはセックスできないという設定を持ってい
た。20世紀アメリカにおけるマッチョのイメージは、童貞力のメタファーとして
ここから提示されたのだ。ところが21世紀型のスーパーマンは、少年性を捨て、
その代わりに屈折した恋愛に対峙している。

8月2日「アナザーホリック」

・西尾維新氏による『×××ホリック』ノベライズ『アナザーホリック ランドル
ト環エアロゾル』を読了。感想を言いに講談社の新レーベル「講談社BOX」の新
設オフィスを訪ねる。

・ファウスト系ラインナップ、そして『アナザーホリック』に続き、秋からは新
スタイルのシリーズがここから続々とスタートするらしい。ファウスト編集長太
田氏を中心に、若い精鋭スタッフが激務をこなしている。玖渚友のコスプレをし
ている人もいる(本当)。語学に堪能なスタッフも揃っている。ライトノベル作
品の海外進出もいろいろ仕掛けていくのだろう。

8月3日「アナザーノート」

・西尾維新氏による『デスノート』ノベライズ『アナザーノート ロサンゼルス
BB連続殺人事件』を読了。感想を言いに集英社「JBOOKS」ルームに。これは↑
『アナザーホリック』とのコラボ企画。ノベライズという制限を逆手に取ってラ
イトノベルを進化させた西尾維新氏の野望と力量に拍手である。

・さてこちらも、僕も本を出させてもらっているレーベル。偶然にも両社それぞ
れの仕掛け人たるスター編集者が二人とも僕の担当編集者だったというわけだ。
そう考えると実に機会に恵まれているということになる。足りないのは才能では
なく努力である。

西尾

2006.08.07 |  第271回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。