第283回

10月18日「僕さー、BOXER」

・講談社を訪問。新刊のデザインなど打ち合わせ。ほぼ仕上がりましたよ。タイ
トルは『iKILL ィキル』12月頭に話題の新レーベル「講談社BOX」から出る予
定。ゲームおたくの殺し屋の話。

10月19日「老衰する未来」

・『トゥモロー・ワールド』試写。人類が繁殖能力を失い、子供が生まれなく
なって18年。希望を失って荒れ果てた世界のたそがれた雰囲気は、現在の、少子
化日本にも良くシンクロする。

・世界が有限だということがわかってしまった時代、人類は増殖本能とどう折り
合いをつけるのか。方法は「戦いながら子供をがんがん作る」か、「平和に安住
しながら子供をあきらめる」かの、どちらかしかない。後者の方が良いように思
えるが、こちらを選んでしまったらゆっくりとではあるが必ず、滅びる。

・映像のクオリティーは高い。特に後半、戦場での逃走シーンの長回しは信じら
れないほどだ。崩れ弾け燃え上がり続ける街の中を疾走する主人公の姿が、8分
以上に渡って1ショットで捉えられている。もちろんデジタル技術の成果だが、
売りにしにくいところにしっかり手間と予算を投入していることが凄いのだ。

・ただし長回しのシーンでは何度も、緊張のあまり窒息してしまいそうになっ
た。カタルシスに向けて、かなりの忍耐を強いるタイプの映画だ。

10月20日「プラチェ関連物件」

・宗教のない時代の若者達はコンビニに「巡礼」し「偶像」を扉として「異界」
にアクセスし「御告」を得る……というのは『コアラのマーチ@メール占い』の話。
www.lotte.co.jp/products/brand/koala/mail_fortune/index.html

・コアラの絵柄をケータイで撮ってメール送信すると、占いメールが返信され
る。レアアイテムへの返信が楽しみだ(試しにまゆげや盲腸跡を自分で描き加え
て撮ってみたが、それらは認識してもらえなかった)。QRコードの代わりに実際
の絵や写真を使えるシステムについては以前紹介したが、今はパケ料固定にして
いる人が増えているので、写真ごと送ってもらってもそれほど負担にならなく
なっている。それで、ソフトをダウンロードさせずにサーバー側で認識し処理し
てしまう、というウェッブ2.0発想。

・実物の写真がデータに変化する、という発明に、「コアラのマーチ」の商品性
が合っている。レアなキャラが出てきたらそれはモノとして、コレクションとし
ての価値を持つわけだが、食べてしまったら消えてしまう。その記念をケータイ
のカメラで撮る、ということを中高生は普通にやっている。

・つまり、本物の方がバーチャルで、デジタルデータの方が永遠に残る実体と、
いうことになる。それを一歩進めて、そのバーチャルデータに付加価値をつけて
いくわけである。

2006.10.30 |  第281回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。