第284回

10月23日「アナログ+デジタル」

・話題の新レーベル「講談社BOX」の太田さんと、某IT企業へ。実はこの会社の特許技術を応用した最新サービスとジョイントして、12月に発刊する小説『ィキル』初版に、ある仕掛けを組み込むことになったのである。

・本を読み終えた人がその直後「何か」を実体験することになる、というもの。デジタルネットワークを使った試みで、もちろん世界初だ。お楽しみに。

10月24日「化け物を見に行こう」

・上野の国立科学博物館にて『化け物の文化誌』展を見る。「科学の目から化け物に光を当てます」という企画だ。天狗のミイラや下駄、人魚のミイラ(2種)や肉といった、UMAの実物(?)まで展示。

・こういうものはもともと各地のお寺や豪族家などで保存されていて、言い伝えとリンクとし崇拝の対象として、あるいは見せ物の出し物として使われていた。

だから秘密のヴェールに包まれていることに意味があり、どれも滅多に公開されることがなかったのである。ところが科学的にも文化的にも価値の設定のしようのないものだから、受け継いだ人が取扱いに困惑して地元の博物館に寄贈してしまうという例が近年は多かった。たまにこういう形で光を当てることは、実に意義深いことなのである。

・今回、門外不出だった曹源寺の「かっぱの手」が初公開されていた。かっぱ橋の河童ですね。小猿の手のように小さいけど、水掻きらしきものと、鋭利な爪がある。

・「科学」博物館での展示ということで心配だったのだけど、「どうやらこれは鳥の骨と魚の皮をくっつけて」……みたいに野暮な分析はなし。あくまでも江戸時代の人々が畏怖していた未知の動物や現象と並立するものとして、客観的に展示してある。当時はライオンだってUMAだったわけだ。サイエンス脳とフィクション脳を同時に刺激されていい感じ。

10月25日「”祭”の前」

・アルケミストへ。引っ越し中。しかも『ひぐらしのなく頃に』のコンシューマー(PS2)版が完成間近ということで、相当ばたばたしておられた。

・『ひぐらし……』のあの微妙な味わいは、奇妙なパースや誤字脱字からも醸し出されているものだったかもしれない。だから、改変することには勇気が必要だったと思う。しかし、今回はやると決めたら徹底的にブラッシュアップする、という考え方のようだ。絵も音も全てプロの手により一新、そして、全てのエピソードを組み合わせて選択肢形式の、いわゆるサウンドノベルゲームとして遊べるバージョンとして仕上げようとしているらしい。

・これは製作開始当初に作者の頭の中にあったイメージに近いものになるかもしれない。文章も絵も全て一人の手によって行いサウンドはフリー素材を使っていたことや、半年ごとのコミケに合わせた分冊形式のリリースにしていたことは、インディーズでの制作販売という事情によるものだったはずだ。そういう枠をとっぱらって、一般市場に向けての理想型を目指しているようだ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。