第293回

1月1日「今年もよろしくお願いします」

・いつものように街をうろうろと散策しつつ新年を迎えた。

・07年はケータイ小説やオンライン小説でさらに実験を続けます。今年から来年にかけてがいちばん面白い時期だと思ってます。よろしく。

1月2日「オープンシーズン=新年(ではない)」

・『オープン・シーズン』。アニメのマーケットに、ソニー/コロンビア陣営が『スパイダーマン』シリーズなどで培ってきたCG技術をもって本気で進攻してきた。その映像はただ緻密で美麗なだけでなく、照明や演出に実写SFX映画のノウハウを導入していて、唸らせてくれる。

・ただストーリーは「人間に飼われて都会の生活に満足していた熊が森に帰ることになって……」と、また、これだ。いや設定ではなく、価値観に食傷してしまうのである。自然派か文明派か、動物ばんざいか人間ばんざいか、視点をどちらか一方に決めてしまわなければ話が作れないのだろう(『もののけ姫』なんて、ハリウッドのプロデューサーはわけわかんなかったんだろうなあ)。

・世界を正義と悪にはっきり分けてしまい、正義の側だけの視点で物語を進める、そういうハリウッドのスタイル自体がそろそろ煮詰まっているのかもしれない。一つの価値観を設定して突っ走ってきたアメリカという国の特徴は、映画にそのまま投影されてきた。ところが今という時代は、インターネットによってあらゆる人々がマルチな視点を持ち得る。世界ってそう簡単に白黒と分けられるものではないと、解ってしまってるのである。

1月10日「きつい青春について」

・『週刊プレイボーイ』誌のアンケートで、例の家庭内殺人事件について考える機会があった。どうしても、加害者側にも感情移入してしまう。そしてつらい。

・今この時代の青春はずいぶんきついものだろうと思う。今日より素敵な明日、という意味での「夢」はもう、ないのだ。それを無理に想定して走り続けようとしたら外側を、他者を攻撃し続けるしかない。今のアメリカのように。しかし、世界にはもう外側なんて、なくなっている。敵と味方が国境のあちら側と向こう側に、きちんと別れて戦っている、そんなシンプルな時代は終わっている。もしかしたら殺し合いに至るほどの敵は同じ民族、いや同じ国、いや同じ家族の中にいるかもしれない。そこが難しい。

2007.01.15 |  第291回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。