第306回

4月1日「文学とテクノロジー」

・あえて4/1付けで書く。8年ほど前に特許出願した「データベースの更新方法,テキスト通信システム及び記憶媒体」(信じてくれる人は特許公報などを検索すれば確認できる→出願番号:特許出願平11-3175211)というアイデアについて、弁護士の寺本先生とミーティ ング。

・簡単にいうと、自動的に「新しい物語」を執筆するロボットである。
オリジナリティーがあり、かつ人間が読んで面白く感じられる小説。それをコンピュータが行うことの矛盾を、エンジンの一部をネット上に置くことによって解決したものだ。
20年前に発想し、完成させるまでに10年以上を費やした後に特許出願したものだが、当時はまだ
ほとんど使い物にならなかった。これはネット上のコンテンツ量が膨大になった時はじめて実効的に稼働するものなのだ。ここ数ヶ月、実験を繰り返し、遂にそのタイミングに達したことを確信した。

・もちろんこのロボットに自分の作品を代筆してもらう予定はない。新人作家としてデビューさせてみようと思っているのである。ここから先はしばらく水面下で進める。

4月2日「小説1作品3円で売ってみる」

・ドワンゴ社へ。僕の過去作品から特にケータイに向いたものを選んで「渡辺浩弐ショートショート傑作選」として順次配信してくれるとのこと。これで僕も今はやりのケータイ小説家だ。
今後は「ケータイ小説の王子」と名乗らせてもらう(こういうのは早いもの勝ちだな)。

・料金についての打ち合わせ。配信コンテンツの値段設定については独自に調査もしているのでとことん交渉させてもらった。結果、当初予定の1/10(7作品で税込み21円)に。たたき売りしようってことではない。この価格で読者だけでなく自分も配信会社も得するはずなのである。

4月3日「企画書より作品」

・ブログのシステムを使って読んでもらう小説のアイデアを思いついた。と、いってもこういうのはアイデアだけでは意味がない。具体的な作品が載るまでは絵に描いた餅でしかないのだ。

・新しいメディア向けのコンテンツは、企画書かいたり企業まわってぺらぺら喋ったりするよりぐっとひきこもって、書き上げてしまうのが一番なのである。しかしその作業に最低でも半年はかかるわけだ。発表のあてもなくひたすらコツコツ書き続ける。どこまで自分を信じて続けられるか、そこが勝負だな。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。