第319回

7月17日「PS陣営の近況」

・六本木ヒルズ内の映画館にて「プレイステーションプレミア2007」……SCE主催による、マスコミ向けのプレイステーション戦略発表会。PS3については各社から総計40タイトルの映像がプレゼンされた。「これからまだまだがんばります」という姿勢の表明機会である。

・オンラインサービスとしてはバーチャル都市『PLAYSTATION Home』が、この空間に自分の庭を造るアプリケーション『GARDEN』とともにショウイングされた。地形を作り緑を配置し川を流し、季節や天候とともにうつろいゆく風景を楽しむことができる。木々は成長し季節によってそれぞれの花が咲き乱れ様々な動物も訪れる。映像を見るだけで「セカンドライフ」なんかやってられない、と思えてしまうほどのクオリティーだ。サービス対象の端末が1種類であるという点は技術的には有利だがマーケティング的には不利だ(ソニー主体でやっていく限り勝手商売や18禁サービスは不可能だが、それこそがまさに今セカンドライフの最大の吸引力なのである)。ただし『PLAYSTATION Home』については新しいスタイルのポータルとしての可能性がある。うまく展開していけば、PS3の本体はマシンではなくここ、と言えるようになるだろう。

・オンライン機能を活用するゲームソフトとしては『リトルビッグプラネット』に注目しておきたい。アクションゲームだが、マップをプレイヤーが自作し、かつ公開することができる。立体世界を作るための材料がそのまま世界観となっている。ブロックとか、積み木とか、紙とか粘土とか、オモチャとか日常の小物とか……それぞれの素材感が驚くほど生々しくて、切ったり削ったり積んだり伸ばしたりこねたりする操作がとても気持ちよさそう。それらの全てが物理計算に基づいて徹底的にリアルに転がり、揺れ、落ち、跳ねるのである。

LBP.jpg

・完成間近の段階まで仕上がっていたビッグタイトルは『グランツーリスモ5プロローグ』『メタルギアソリッド4』『鉄拳6』など。どれも目を見張るほどの美しさだった。ただしPS3はまだ大衆機ではなく高級機だ。作り手は細かい部分のクオリティーを実現することに没頭していると思うが、今に限って言うと一般ゲーマーの財布を開かせるために必要なのはユーチューブ画像で3秒で訴求できるような魅力なのだ。ただ、ソニーはあせっていないと推測する。このマシンは次代のハイデフ環境すなわちハイビジョンモニターや5.1ch環境と一緒に普及させていくつもりなのだろう。

・ゲームマニアは大型ハイビジョンモニターを買うのか、買うとしたらいつ買うのか、という点が重要だ。僕は次の山は来年後半だと思う。ソフトメーカーとしては、2011年あたりまでにこつこつと良作をためておくという戦略もある。そういうことができるのは余裕のあるメーカーに限られるだろうが、先行投資はきっと報われるだろう。ところでPS・PS2のソフトもPS3で再生しハイビジョンに表示すると見違えるほど美しくなる。これはゲームマニアの人にはぜひ体験してもらいたい。

・PSP軽量バージョン(9/20発売 ¥19,800)は持ちやすくて非常に良い。ワンセグ対応(チューナー¥6,980)でTV放送も見られる。ビデオ出力も可能になり、TV画面で遊ぶこともできる。映像版ウォークマンとしてのニーズに応える機能だ。

・ソニーはPSPを、据え置き機の不調期に任天堂を支えたゲームボーイみたいな存在に位置付けることができるかもしれない。今年の上半期に元も売れたゲームソフトはポケモンでもWiiスポーツでもなくPSPの『モンスターハンターポータブル2nd』だったのである。中堅どころのメーカーとしてはオリジナル作品をきちんと作ってきちんと稼げる場所になっている。そしてダウンロードソフトだけでなくパッケージとしても、過去のPS ・PS2タイトルがどんどん遊べるようになるだろう。

・さて次の国民的大ヒット作品はどこから出てくるか。大穴はPS2だ。

PSPnew.jpg

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。