第325回

8月27日「熱い」

・ニワンゴ社に。杉本社長に、特に「ニコニコ動画」の戦略についていろいろ伺う。

・会員数は現在約250万人。実に特異なるコミュニケーションがここに成立している。空間軸だけでなく時間軸も別のところにいる人々と一緒に騒いでいる感覚は、自分で体験していてもすごく不思議だ。杉本氏やひろゆき氏はサービス開始当初からこれを「非同期コミュニケーション」と呼び、そこに可能性があると名言していた。このキーワードによって、メールサービスとしてのニワンゴの目指す方向も明確になるのだ。

・それでもここまでの盛り上がりは「予想をはるかに越えています」とのこと。ただしこの勢いをさらに加速していくための仕掛けを今後どんどん行っていくらしい。火がついたとみるやそこにがんがん油を注いでいけるパワーは若いIT系企業の強みだろう。例えばファンや職人が集まれるようなイベントなどを計画中とのこと。楽しみ。

・著作権問題を様々な方法でクリアしつつの作業は大変だと思うが、がんばってほしい。新しい文化はその壁の先に広がる。例えば画面にコメントが入ることによって映像が別の価値を持ち、その価値が一人歩きし、暴走し、さらに新しいコンテンツを生み出していく。最初の引用もと作品とは異質な魅力がはっきりと確立されたとしたら、それはオリジナル作品として定義されていくべきなのだ。と、提案するまでもなく既にいろいろな作品のプロデュースも仕掛け始めているそうだ。『レッツゴー! 陰陽師』のようなヒットコンテンツは今後続出するだろう。

8月29日「涼しい」

・PS3サウンドノベルの最新作『忌火起草』(セガ+チュンソフト/10月25日発売予定)。さすが本家本元チュンソフトと言えるクオリティーで、安心して遊べる。

・呪いが伝染していく系というか、いわゆるJホラータイプの作品。ほんわかムードの金八先生のセールスがふるわなかったおかげで、チュンソフトはホラーに注力するようになったのだろうか。うれしい。

・デジタルハイビジョンの画像は、人物の血管や皮膚の状態までを表現する。そして静止画が、同じ画質のままシームレスに動きだす。写真だと思っていた人物がじわじわと動いていたり、いきなり襲ってきたりして、びくっとさせられたる。そして5.1ch立体音響の効果も全編で効きまくり。その場所の空気感までが再現されるが、いないはずの女に背後からふいに耳元で囁かれたりするのがすげー怖い。

8月31日「やっぱり暑い」

・地球温暖化の怖さは頭でわかってはいるけれど心にピンとこない。僕らの世代は60~70年代SF全盛期に、氷河期がまたやってくる恐怖ばかりを刷り込まれているからだ。

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2007.09.02 |  第321回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。