第338回

11月26日「からっぽの世界」

・劇場版アニメーション『空の境界 ~第一章 俯瞰風景~』試写。緻密な設定をベースに時間軸を計算ずくで錯綜させ脳みそをかき乱してくれるあの膨大なる物語を、一体全体どうやって映像にするのか興味津々だったが、なんと全7章を7部作として映画化していくということらしい。12月から、ほぼ月代わりという形で順次レイトショー公開するそうだ。

・第一章「俯瞰風景」は、冒頭の短い章。設定が全く説明されずに物語がいきなり核心から始まる。それを、原作を崩すことなく、全く独立した1本の映画作品として観られるようにまとめている。原作のファン以外が観てもちゃんと愉しめる仕上がり。次の回に投げずにここでいったんきちんと完結しているのである。映像化スタッフが原作者・奈須きのこ氏の世界観を徹底的に研究しているということは間違いない。この先も期待できそうだ。

・映像的には、血と錆の浮いた街の描写が素晴らしい。がらんどうの空間として見渡した風景、その広がりが、作品全体のテイストと合致しているのである。長いセリフも違和感なく進むし、和服にブルゾン、という着こなしでのアクションも美しくこなしている。原作を読んで設定を理解してから観てほしいとも思うが、これで『空の境界』初体験、というのもありだと思う。

11月29日「DSを配信端末に」

・am3社の『DSビジョン』発表会。大日本印刷と任天堂がジョイント。DSに専用カートリッジを装着してマイクロSDメモリーを差込むと、ネットからいろいろなコンテンツをダウンロードすることができるようになる。来年の3月にスタートするプロジェクトである。

・DSのユーザーは脳トレから入ったような一般層が多い。そのマーケットには、ゲーム以外の、例えば小説やマンガや実用物といったタイトルのニーズが強いのだ。そういうジャンルのものは、一本一本カートリッジにまとめてゲーム流通で売ると言う形はちょっと重たいのである。

・制作者としても、あるいは小説家としても、こういう動きに注目している。ぜひゲーム機で読んでもらいたい形の物語もあるのだ。

11月30日「東京にアートでカンフル」

・アート、デザイン、建築の複合イベント「CET(セントラルイースト東京)07」。都心東部で、街をアートスペースとして活用するというプロジェクト。参加者はマップを持って日本橋~神田の一帯を歩く。問屋街や倉庫街の各所に、先鋭的なギャラリーが出現している。ビルの壁面に投影した巨大映像でオリジナルのゲームをプレイさせたりと、面白い企画がたくさんあった。

・12/2に終了してしまうが、毎年行われ、着実に拡大しているイベントのようなので今後も注目したい。大都市の中で疲弊しかけた地域は、ともすればスラム化が進みかねない。そういうところで空き物件をギャラリーに転用し、そこを拠点にアーティストを集めることによって、活性化をはかる。そんな試みは世界各地に成功例がある。東京もがんばってほしい。

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PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。