第344回

1月2日「ネズミ年」

・最近、ネズミをまたよく見かけるようになった。都心でも注意深く観察していると、道端の植え込みや地下鉄の線路脇を走る黒い姿に気づくことができる。

・昔はほとんど餌をもらわずに飼われている猫が結構いた。家の周囲に出るネズミをとってるだけで腹いっぱいになっていたのだ。猫にはそういう仕事があった。ペットではなく、家畜だったのである。今、野良猫や半野良猫に対する風当たりが大きいのは、そんな重要な役割がなくなってしまったからだと思う。

・猫にネズミを喰い殺せるだけの凶暴性を取り戻させることはできないものかと考える。しかし餌をやらないようにしたとしてもただ飢えて弱るだけだから、難しい。例えば野良猫をいったん収容し、生きたネズミだけをしばらく与え続けた後で、街に放つ、とか。実験してみたいところだが、野良猫を捕まえるのもネズミを捕まえるのもなかなか大変そうだ。

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1月4日「カットアップ/サンプリング/リミックス」

・既存の作品を切り張りして新しい価値を作りだしてしまう。そんな才能が各界に現れてきている。『メガバカ』についてはあの形で発表されていた以上は擁護できない。が、全ての使用作品について出版社がきちんと著作権処理していたとしたら、どうだろう。

・80年代から90年代にかけて台頭してきたハウス・ミュージックを商業化するために、音楽業界はそんな苦労をしてきたわけだ。インディーズのミュージシャンがメジャーデビューする時、担当プロデューサーはものすごい苦労を強いられたはずだ。それがプロの仕事なのである。それができないなら、プロデューサーとか編集者といった職種自体が次第に消えていくということになる。

・もちろん今後は作家も知的所有権の意識や著作物使用方法についての知識を持たなくてはならない。ただし編集者が過去作品についての知識と権利処理のノウハウを持っていなければ、話にならない。

1月8日「ダイエットよりフィットネス」

・『Wiiフィット』ミリオン達成のニュース。1ヶ月で100万台の体重計が家庭に普及したということでもある。ただしこの商品はゲームでありフィットネスツールであり、それだけではなく体重計でもある、ということにねじれがある。ここにおいて「減量」と「体育」がごっちゃになっているわけだ。

・そもそも痩せるためのツールとして企画されたものではないはずだ。ヨガや太極拳のように、太っていても痩せていても健康な肉体を作るためのものだったのではないか。しかし体重というファクターがデジタル化されてしまうが故に、痩身グッズとして仕上げられ、受けいれられる状況に至ったのではないか。

2008.01.13 |  第341回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。