第348回

1月31日「1円ならしょうがない、か?」

・20年ほど前、中国の貿易関係者と話したことがある。日本側に輸入と流通の体制を作ってもらえれば、たいていの野菜は……キュウリでもニンジンでもタマネギでも……店頭で1円均一で売れるようになりますよ、という試算をもって各所を回っている人だった。しかし、反応は良くなかったようだ。安すぎる、ということだったらしい。

・八百屋さんもスーパーも1円のものなんて売りたがらない。いくら売っても儲からないから、と。それで彼は、日本向け野菜の付加価値を上げていく計画を作った。品質と安全性を管理し精査する仕組みを作り、それで価値と価格を上げる、と。ところが、それは拒否された。その必要はない、という返答が政府筋からあったらしい。商社、つまり食品のプロではなく流通のプロが動き出していた。激安の野菜をそのまま輸入して小売り流通に流すのではなく、加工用に使うことにしたのだ。中国国内にどんどん工場を作らせ、パッケージ化してから日本に輸入する。これなら、原価の100倍で売ることができる。消費者でも小売業者でもなく、メーカーと商社だけが得できるシステムがこの時に出来たのである。

・パッケージに日本語のロゴが綺麗に印刷されていれば安心してしまう。それって本能が壊れてるってことだよね。

2月1日「フロイト的メタファー」

・『ライラの冒険 黄金の羅針盤』試写。90年代後半に生まれたファンタジー小説シリーズの映像化。その世界では人の魂の一部が「ダイモン」として体の外に出ていて、様々な動物の姿をしている。ネコだったり、サルだったり、イタチだったり。子供の頃はそれは不定形で、思春期までにたくましく形を整えていく。

・それぞれの主人に常にまとわりついているかわいらしい姿がリズム&ヒューズ社のCG技術で描かれる。ファンタジーとしては守護精霊として設定されているが、アニメによくあるマスコット動物を高い完成度で映像化したもの。あるいは性的メタファーとみるべきかもしれない。少年少女が邪悪さを獲得しないように、「切り離し」という手術が考案されていたりして、深読みするとなかなか怖い。諸星大二郎っぽいね。

・ダイモンの小動物だけでなく、鎧をまとった騎士として活躍するシロクマがむちゃくちゃリアルで、なのに知的で勇ましくて、かっこいい。シロクマ好きなんだよなー。

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2月4日「箱開いた」

・文芸誌『パンドラ』の創刊号が出た。AB面の2分冊発売で、3月発売のサイドBには僕の長編も載りますよ。

・講談社BOXの太田編集長にまた、インタビューしてきた。近々アマゾンの講談社BOXコーナーに載る予定。

2008.02.09 |  第341回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。