第356回

4月1日「さる業界の秘密」

・あえて4月1日付けで書くわけだが、この話もいろいろとやばいので、内密にしておいてもらいたい。

・文章書くのは大好きだけれどもストーリーのアイデアが出てこない。絵はすごく得意だけど世界観を作れない。そういう人がとても多い。結局みんな同人でエロパロばっかりかくことになる。けどそれはプロの世界だって同じ。実はオリジナルを考えることができる人なんてほとんどいない。ヒットを次々と出している作家はどうやってるかというと、アイデアを「買って」いるのである。

・『原案オークション』という会員制サイトがある。会費は高いけれども、ここに入れば毎日、新しい小説やマンガやゲームのプロットが読み放題。これはいい、と思うアイデアがあれば、入札して、買う。もちろん完全に秘密で、売った人はお金もらった後は「著作者人格権を行使しない」という契約条項がある。買った人はそのアイデアを自由に複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行うことができる。つまりそれに肉付けして小説にしたりマンガにしたりして、自分の作品として発表できるわけである。

・運営元は極秘とされているが、これは実はものすごく巨大なビジネスになっている。オークションの収益だけで毎月何億というお金が動く。また良い原案を有名作家が買った場合、以降の成果物の価値は保証されるわけだ。取引が決まった瞬間に、大手の出版社や映画会社が札束抱えて殺到してくる。もちろんそこで発生するビジネスにも、このサイトが関与する。

・プロの編集者やプロデューサーでもこのサイトのことを知らないという人がいるが、多分知らないふりをしているだけなのだ。よく作家やマンガ家が、アイデアが出ない辛い苦しいみたいなことをブログに書いてるのを見かけるが、それは嘘ついてるか、もしくは担当編集者が意地悪してこのサイトを使わせてあげてないってことなのである。

・僕の場合は売れてる側ではないので購入者ではなく提供者として働いている。そう、同じアイデアでも、僕の名前で出すより有名作家さんの名前で出した方が良いものがある。ここで売ってしまった方が儲かるのである。3行くらいのストーリーアイデアが、3000万を超える値段で売れたこともある。もちろん、そのアイデアはその後人気マンガとなり、映画となり、買った人はそのウン十倍の利益を手にしているわけだが。アイデアはあるんだけどどうしても一本の作品に仕上げることができない。そういう人は、僕と同じ、つまり原案提供者としてここに登録すればいいのである。

・ここのビジネスのうまみに、今多くのIT系企業が注目しているらしい。先だっての某SNS規約改定騒動など、普通に考えていては理解できないネット事件の多くが、この動きに関係している。

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PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。