第407回

3月17日「アイコン化するクリエーター」

・今夏リリース予定のiPHONE新OS(3.0)について。作り手の立場でいうと、ダウンロードしてもらったアプリから次のコンテンツを買ってもらうこともできる「アプリ内決済(継続課金)」モデルのインパクトが大きい。

・例えば雑誌がアプリを立てる。まず無料で表紙だけダウンロードしてもらう形でもいい。その表紙アイコンを自分の画面に持ってる人が読者となる。新しい号ないし記事が出るたびに、アイコンに印を付ける形で告知する。あるいは定期的にヘッドラインだけは無料で流して、気に入ってもらえた場合だけ買ってもらうとか。

・アプリは雑誌のほか音楽レーベルやファンクラブ単位でもいい。そこからさらに一歩進んで、作家やミュージシャンごとにアプリを立ち上げる時代が、やがて来るのではないか。作家の名のアイコンを、ユーザーの手元に送り込んでおくイメージ。新作や新曲が出るたびに情報を送り、購入を薦める。

3月25日「また一歩、ひらきこもり時代へ」

・ニコニコ生放送で、音楽配信サイト「mF247 Episode2」の発表会。西村博之氏と丸山茂雄氏が並んで話をする時代が来るとは。「インディーズ」と「メジャー」の間を結びつける仕事を、別の時代、別の立ち位置で推進してきた二人だ。ある年代以上の多くのクリエーターは丸さんにおごってもらったことがあるだろう。ある年代以下の多くのデジタル業界人はひろゆきさんにスッポカされたことがあるだろう。僕はどちらも経験している。

・ひろゆきさんの経歴についてはいわずもがなだが、丸山さんは日本でニューミュージックとかロックの世界でインディーズとメジャーを地続きにして、すなわち「テレビに出なくても売れるミュージシャン」のスタイルを作った人なのである。今の時代、ネットを使って、という発想に至ったのは当然だった。mF247は、インディーズアーティストがネットで楽曲を公開することをサポートすることを目的に成立されたサイトだった。機能は作りあげたものの、収益モデルについてはうまくいかず、倒れてしまった。そこでひろゆきーニコニコ動画連合の出番、ということになった。誰もが自分の楽曲を無料でアップロードできて、誰もがそれを無料でダウンロードできる。というだけでなく、公開されている曲は自動的にニコニコ動画の「mF247チャンネル」でも流れる仕組みになるという。CDや着うた、グッズなどの制作や販売についてもサポートするらしい。

・ネット上で楽曲を公開する、それをニコニコ動画などで宣伝する、くらいまでは、別にこういう仕組みがなくても一人でお金もかけずにできることだ。けれどいざ個人のミュージシャンが思い立っても、何から始めていいかわからないって人の方が多いだろう。こういう仕組みは現実的に非常にありがたいのである。

・ただし、そこから先は自分でやらなくてはならない。著作権の概念が変わる、動画サイトや音楽サイトを軸にしてクリエーターの収益モデルが一変する、というところまで、かの二人はたどり着いている。では、次の一手は何か。そこは、各クリエーター、アーティストが踏み出すべき領域である。僕もやるよ。

・丸山さんの紹介ビデオで使われた「ダイハードな男」というキャッチフレーズはほとんどの人には意味不明だったと思うけど、この人については、以前この欄で「癌を克服されたらしい」と書いたことがある。本当にすごく元気そうだった。丸山ワクチン使ったんだろうか。

3月26日「そういうことか」

・ミュージシャンの友人に電話してみた。大手レコード会社には譜面も読めないプロデューサーがいるそうだ。新しい曲は、そういう人に聞かせて意見されるより、ニコニコ動画で流してコメントつけてもらいたい、と言う。なるほど。その流れでもし人気が盛り上がってきたらCD化とか着メロ化、という流れができたら、とてもフェアだよね。

・作家仲間と飲んでも、最近はニコニコ動画の話とiPHONEの話が多い。ゲームクリエーターなどデジタル系の人だけでなく、小説家やマンガ家も、今後はデジタルのインフラを積極的に活用して作品を創り、発表していくことになる。ただし個人クリエーターはなかなかそのノウハウを確保しづらいから、情報交換につとめたい。

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PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。