第479回

9月29日「3DS考察」

・任天堂の新ハード「ニンテンドー3DS」(’11年2月発売予定)の発表会に行き、各タイトルを体験してきた。特別なメガネをかけなくても画面が立体として見える「裸眼立体視」技術を携帯機に採用したことが、最大の発明である。このシステムは、小さな画面を、しかも自分の手で持って見る携帯ゲーム機に非常に向いている。かなり高品位の立体映像を、快適に、長時間見続けることができる。各タイトルについてのレビューは機会を改めるが、いずれも、脳の新しい部位が目覚めていくような気持ちよさがあった。

・本体機能が充実していて、3Dのデジタルカメラとしても使える。3Dゲーム+3Dカメラの機能で、本体だけで『ARゲームズ』を遊ぶことができる。AR(拡張現実)コンテンツは、アイフォンなどで実験的なものが既にいろいろ出ているが、さすが任天堂といえる仕上がりである。

・本体の、ハード機能をわずかに延長しただけで画期的なゲームになる。この発想が、3DSの大きな特徴である。他にも例えば、3DSを持った人どうしですれ違うだけで自動的に何かが起こる「すれ違い通信」機能が劇的に進化している(例えば『ラブプラス』では、”彼女”どうしが噂話をして情報を拡散させる、とか)が、これは、ハードウェア自体で、それを持っている人間の行動をゲーム化できる仕掛けである。

・かつてソフトとハードを分離する発想によって「ファミコン」というお化け商品を生み出した任天堂が、今、ソフトとハードを融合する試みを始めた、とみるとわかりやすいと思う。岩田社長が「タマゴとニワトリ問題」というキーワードを何度も発言していた。その解決策が、ここにある。コンテンツを体験する仕組みを根本から変える試みであり、これはゲームにかぎらず映画においても、3D革命の最前線には、重要な発想だと思う。

・映画界はこの問題に先にぶつかり苦闘を余儀なくさせられている。インフラが少ない状況では、予算をかけた大作がどうしても作れなかったわけだ。『アバター』という超ブロックバスタータイトルの出現で、3D対応の映画館は激増したが、3Dテレビなど家庭用のシステムはまだまだ伸び悩んでいるのが現実である。

・数十万円かけて専用ディスプレイを買い、その画面に正対するベストポジションに席を設け、専用のメガネを装着する。もちろん寝ころんで見ることはできない。その出費や手間が、マニア以外にはどうしても重いのである。そこで3DSには、3Dの映画やアニメを気楽に見るためのプレイヤーとしての可能性も出てくるわけだ。2万5000円のマシンで、いつでもどこでも、メガネなしで見られる。画面のサイズやレゾリューションにこだわるなら映画館で、気楽に楽しむなら3DSで、という位置付けが定着するかもしれない。マニアがハイファイ環境の整備に邁進していたころ現れたウォークマンのようなステイタスが想定される。

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2010.10.04 |  第471回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。