東京五輪で男子400mリレーは“日本化”する

世界中に衝撃を与えたリオ五輪男子400mリレー日本代表

<文/佐藤芳直 連載第5回>

コルコバードのキリスト像(撮影/山下徹)

 リオ五輪が終わり、ひと月が過ぎたが、まだあの余韻は続いている。私はなんといっても、男子400mリレーに感動した。日本は他国のように突出した記録を持った選手がいなかった。以下の4人の自己ベストを見れば分かるように、100m10秒を切って走る選手が1人もいなかったのである。(カッコ内は記録を出した年月)

山縣亮太:100m 10秒05(リオ五輪準決勝)
飯塚翔太:200m 20秒11(2016年6月)
桐生祥秀:100m 10秒01(2013年4月、2016年6月)
ケンブリッジ飛鳥:100m 10秒10(2016年5月)

 にもかかわらず、9秒台を走る選手を4人揃えたアメリカに勝ってしまった。まさかあのアメリカを破って(アメリカはレース後失格になったが)、銀メダルを取るとは、世界中の誰も予想していなかったろう。

 バトンの受け渡し、これに徹底的に時間と手間をかけて、どの国よりも確実で、着実で、迅速なバトンリレーが可能になるように、技術を磨いていった。

 そして、おそらく400mリレーは4年後の東京五輪で“日本化”する。

日本チームの”リレー革命”が世界に広がる


 今までの世界の価値基準は、いかに9秒台で走る選手を4人揃えるか、というところにあったはずだ。だが、「いや、10秒台しか走れない選手を4人揃えた日本が銀メダルを取ったじゃないか」と、日本の勝利は世界の常識を打ち破った。であるならば、「一人ひとりの速さじゃないんだ、チームワークなんだ」、というところに目が向いてくる。突出した実力の選手がいなくても、いかに早く正確に的確にバトンタッチすることができるか、それができれば、メダルを取ることができるかもしれない。

 どの国も、特に突出したランナーがいないアジアの国々は、日本のバトンリレー方式を徹底的に模倣してくるであろう。徹底的に、どうやってバトンを繋ぐのか、どんな練習をしたのか、上から下に渡すのか、下から上に渡すのか、「ハイ」って声をかけるのか、「ホイ」って声をかけるのか、徹底的に真似てくるであろう。

 おそらく、その中で成果を出すチームは、日本のチームが「ホイ」って言うなら、俺たちも「ホイ」だ、とやるチームであろう。何かを学ぼうとしたら、徹頭徹尾真似することである。その中に何かがあるはずだ、と考えた国のリレーチームだけが、日本と同じような成果に近づけるかもしれない。そしてこの現象は、世界の400mリレーという競技が「日本化」することを示している。

 「バトンの受け渡しなんて、俺たち一回しか練習してないよ、アハハ」と金メダルを取ったチームのすごく速い選手が笑っていたが、「今に見てろ」である。「努力に勝る天才なし」だ。一つのことを徹底的に磨きぬくという日本人の社会資本があって、日本人がいて、そしてあの400mリレーでメダルが可能になったのである。まさに、「努力に勝る天才なし」ということを、日本のリレーチームは証明してくれたのではないかと強く思う。

ノーベル賞に表れる日本人の特性


 同じようなことがノーベル賞についても言える。21世紀に入って、ノーベル賞受賞者の数、特に自然科学部門だが、これで日本は第二位のポジションにいる。また、日本が受賞するノーベル賞の多くは個人ではなくチームの研究によるものである。これはさまざまな国のノーベル賞受賞の略歴を見ると、際立った特徴である。

 一人の圧倒的な天才がいて、その人が業績を上げたわけではない。アインシュタインのような天才はいない。しかし、チームで何かをやり遂げる、チームで知恵を出し合って、ひとつのとても届かないような高みを目指していく。この点において、日本人というのはやはり優れた民族だと思う。ノーベル賞がすべての基準ではないが、ノーベル賞受賞数の圧倒的な多さは、日本という社会を表していると思う。

 日本人というのは、ピンで立てばたいしたことがない。しかし、チームになると日本人ほどややこしい民族はいない、とよく言われる。ピンの力ではなく、チームであそこまでできる。それが日本の特性でもある。日本人はピンで何か仕事をするより、チームで仕事をした方が成果を上げやすいということを、世界の人々も知っているのである。

【佐藤芳直(さとう・よしなお)】
S・Yワークス代表取締役。1958年宮城県仙台市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、船井総合研究所に入社。以降、コンサルティングの第一線で活躍し、多くの一流企業を生み出した。2006年同社常務取締役を退任、株式会社S・Yワークスを創業。著書に『日本はこうして世界から信頼される国となった』『役割 なぜ、人は働くのか』(以上、プレジデント社)、『一流になりなさい。それには一流だと思い込むことだ。 舩井幸雄の60の言葉』(マガジンハウス)ほか。

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