カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第2講・極端な紙幣増刷が、なぜ行われたのか?」

ルール地方に進駐するフランス軍

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 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

 ドイツのライヒスバンクは第1次世界大戦後、極端な紙幣増刷をおこない、貨幣供給量(マネー・サプライ)を大戦勃発時の1兆倍に増大させ、これに比例して、物価もまた1兆倍となります。当時のドイツはハイパーインフレーションに陥りました。

金(ゴールド)での賠償金支払い


 なぜ、ライヒスバンクがこのような常軌を逸した紙幣増刷をおこなったのでしょうか。よく言われる説は、ドイツは第1次世界大戦後、ヴェルサイユ条約に基づいて要求された巨額の賠償金を支払うために、紙幣を大量に発行した、というものです。

 しかし、これは間違っています。ドイツに課せられた1320億金マルクは「億金マルク」で、紙幣の支払いではなく、正貨つまり、金(ゴールド)での支払い、或いはそれに見合うドルやポンドの支払いでなければなりませんでした。当時は金(ゴールド)が国際決済に使用されていました(これを金本位制といいます)。

 1金マルクは金0.3584gで、1320億金マルクは、0.3584×1320億=473億0880万gの金です。この量の金の現在価値を、金相場1g=約4600円(2016年)で算定すると約218兆円になります。ドイツはこの量の金(ゴールド)の支払いを命じられていたので、紙幣をいくら刷っても、金(ゴールド)あるいはドルやポンドの支払いが減るわけではありません。

ハイパーインフレの諸説


 その他、当時のドイツのハイパーインフレーションを説明する見解として、以下のようなものがあります。政府と産業界、ライヒスバンクがマルク安を画策して、金融緩和をおこなったとする見解。第1次世界大戦後、ドイツの産業界はマルク安のおかげで、輸出が有利になり、業績を上げていました。

 緩和を続けることで、マルク安を誘導することは有益な政策と思われますが、ドイツのマネー・サプライは1兆倍という尋常でないレベルでおこなわれていました。これはマルク安誘導という範疇のものではなく、マルクを破壊するものであったと言わねばなりません。

 さらに、ヴァイマール体制下のドイツでは、右翼や左翼の暴動があいつぎ、政治が安定していなかったこと、戦時経済に偏った設備投資から抜け出せなかったこと、オーストリア支配下のハンガリー(農業)やチェコ(工業)が独立し、従来のサプライ・チェーン(供給網)が分断されてしまったこと、フランスのルール地方占領や行き過ぎた賠償金請求が、ドイツの抵抗運動(サボタージュ)を生んだことなどをハイパーインフレーションの理由として、挙げる見解があります。

意図的な紙幣増刷


 しかし、これらはドイツの経済悪化の要因を説明しているに過ぎません。ハイパーインフレを引き起こした極端な紙幣増刷がなぜ、おこなわれたのかという答えになっていないのです。

結局、この紙幣増刷は飽くまで人為的なものであり、政府上層部が何らかの意図を持って、おこなったものと捉えるべきです。では、いったい何のために、どんなメリットがあって、そのようなことをおこなったのでしょうか。次回、詳しく、見ていきます。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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