もうひと言、大阪府警機動隊員の「土人」発言に沖縄県在住者として言いたいこと

<文/ジャーナリスト 惠 隆之介>

「土人」発言はどのような状況で生まれたか?

 沖縄県東村高江における米軍北部訓練場のヘリパッド移設工事の警備に当たっていた大阪府警機動隊員が、工事を妨害する移設反対の活動家たちにフェンス越しに体に触れられたり、服を掴まれたことに対して、「どこつかんどんじゃボケ、土人が」という言葉を吐いた。言われた反対派はこの機動隊員を「おい、ヤクザ、ヤクザ」と“反社会的勢力”呼ばわりした。  この騒動について、金田勝年法相は10月25日の参院法務委員会で、「土人」という言葉は差別用語に当たるとの認識を示した。また、大阪府の松井一郎知事も「差別的発言は許されない」と発言した。  ただし、松井知事は、「そこに至った背景もちゃんと伝えてほしい」とメディアに苦言も呈している。当時の模様について、移設反対派の撮影した動画がネット上にアップされている。どのような状況でこの機動隊員が「土人」と発言したのか、国民のみなさまもぜひご自身の目で確かめてほしい。

「土人」という言葉の意味するところ

 大阪府警によれば、この機動隊員は「侮蔑的(差別的)な意味があるとは知らなかった」と発言したという。  「土人」という言葉には、「①土着の住民。土民。」という意味と、「②原始的生活をする、土着の人種。▽多く、軽侮の意を含む。」という意味がある(『岩波国語辞典 第七版』)。  「土人」という言葉が差別用語として認識されるようになったのは、戦後になってからである。例えば、北海道のアイヌは、行政用語では明治11(1878)年から「旧土人」と呼ばれ、明治32(1899)年から平成9(1997)年までは「北海道旧土人保護法」が存在していた。  沖縄について言えば、明治24(1891)年5月、明治天皇は沖縄県現状調査のため侍従北条氏恭(うじゆき)子爵(旧河内狭山藩藩主)を有史以来、初めて沖縄に差遣(さけん)された。河内狭山藩は今の大阪府大阪狭山市である。当時の侍従沖縄巡回日誌では、沖縄県民はカタカナで「ドヂン」と表現されている。侍従はその後、明治39年まで計7回沖縄に差遣され、天皇の名代として県民福祉、沖縄近代化に尽くされた。その足跡をどの角度から見ても、北条氏は沖縄県民を天皇の赤子(せきし)と見ており、そこには差別の片鱗も見られなかった。  ただし今回の件については、この機動隊員が「土人」という言葉の意味をどこまで正確に認識していたかどうかは分からないが、さすがに侮蔑的な感情を込めて発したことは否定できないと思う。

沖縄県民は「先住民族」?

 今般の騒動について、翁長雄志沖縄県知事は20日、県庁に池田克史県警本部長を呼び、「県民の感情を逆なでし、悲しみに陥らせる厳しい言葉だ」と強く抗議した。  ところで、仮にもし、この機動隊員がポリティカル・コレクトネス(政治的に正しい)な言葉遣いで、「先住民族が」と言っていたら、翁長知事はどのように評価したのだろうか。  というのも、翁長知事は2015年、スイス・ジュネーブにおける国連人権理事会で、沖縄県民を先住民に認定させる運動を展開するNGО「市民外交センター」(代表・上村英明恵泉女学園大学教授)のサポートで国連演説を行い、国際社会に「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている」と訴えた。  実は、これに先立つ2008年、国連人権委員会は日本政府に対し、「アイヌ民族および琉球民族を国内立法下において先住民と公的に認め」るよう勧告しているのだが、これも「市民外交センター」らが働きかけたものだった。  そのため、沖縄県議会は、この翁長知事の演説を問題視し、「“県民は先住民”との印象を国際社会に与えた」など知事を批判した。  我々沖縄県民の大多数も、自らを「先住民族」などとは思ってはいない。市民外交センターの活動や翁長知事の国連演説こそ、我々県民の感情を逆なでしている。

機動隊員の基本的人権はなぜ守られないのか

 私が言いたいのは、移設反対派も機動隊員らに罵詈雑言を浴びせたり、県警機動隊員の個人情報をさらしたり、はたまた、「子供へ危害を加えるぞ」などと脅迫もしているということだ。  反対派は機動隊員のプライバシーや憲法が保障する基本的人権についてはどう考えるのか。また、翁長知事が差別発言を問題視するならば、犯罪行為に当たる機動隊員家族への脅迫については、どのように考えているのか。ぜひ見解を伺いたいものである。 【惠隆之介(めぐみりゅうのすけ)】 ジャーナリスト。1954年沖縄コザ市生まれ。防衛大学校管理学専攻コース卒。海上自衛隊幹部候補生学校、世界一周遠洋航海を経て護衛艦隊勤務。退官(二等海尉)後、琉球銀行勤務。米国務省プログラムにて米国で国際金融等研修。著書に『海の武士道DVD BOOK』『沖縄が中国になる日』『マンガ海の武士道』(以上、育鵬社)、『沖縄よ、甘えるな!』(WAC)、『いま沖縄で起きている大変なこと』(PHP研究所)ほか、多数。
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