カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第7講・なぜ、金融緩和をしなかったのか?」

フーヴァー大統領

フーヴァー大統領

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

バブル崩壊


 1929年の暗黒の木曜日以降、バブルがはじけて、世界恐慌がはじまります。バブル経済への対処法は、はじける前とはじけた後とでは異なります。はじける前の対処法としては金融を引き締めて、ドル量を減らし、バブルが急激に吹き飛ぶのを防ぎながら、膨脹したバブルをガス抜きすることが必要です。

 一方、バブルがはじけた後の対処法として、財政出動や金融緩和で、ドル量を増やすことが必要です。人間の体で例えるならば、バブル崩壊は出血多量でマヒした状態ですから、充分に血液を輸血すること、つまり経済の血液にあたるマネーを充分に市場に供給しなければなりません。

 2008年のリーマン・ショック後、大規模な財政出動や金融緩和がおこなわれ、充分な量のドルが供給され、早期に危機から脱することができました。では、1929年の大恐慌でも同じことがおこなわれたのでしょうか。

フーヴァーは「無為・無策」ではない


 大恐慌発生当時の大統領ハーバート・フーヴァーは財政出動をせず、FRB(連邦準備銀行)も金利水準を維持し、金融緩和をおこないませんでした。教科書や一般概説書ではフーヴァーが「無為・無策」であったと評されています。しかし、当時の国際金融のシステムを鑑みれば、フーヴァーをそのように評価することはできません。

 紙幣とは本来、紙切れに過ぎません。その紙切れを金(ゴールド)と交換できると保証することにより、紙切れである紙幣の価値は金と等価なものとなります。このように紙幣と金を交換可能ものとし、リンクさせることを金本位制といい、当時の先進各国がこの制度を採用していました。

 金本位制において、国際為替取引が安定します。例えば、1ドルが1ミリグラムの金と交換可能で、1ポンドが2ミリグラムの金と交換可能であるならば、ドルとポンドの交換比率は1:2となります。また、比率は固定されて、動きません。この交換比率に基づいて、ドルとポンドの為替取引をおこなうことができます。つまり、金が各国通貨の共通基準として機能し、潤滑な国際決済を可能にしていました。

 世界恐慌でアメリカ経済への信用が失墜し、人々がドルに対する不信感を抱き、ドルを金と交換しようとすると、政府の金保有が減っていきます。金流出を食い止めるために、ドルに希少価値を持たせて、ドルの価値を維持しなければなりません。そうしなければ、金本位制は破綻し、国際決済が直ちに停滞し、世界経済の混乱を引き起こすことは明らかでした。

 フーヴァー大統領やFRB(連邦準備銀行)は金本位制を維持し、国際協調することを政策の最優先に位置づけ、そのために財政出動や金融緩和をせず、ドルの供給量を増やしませんでした。

バーナンキが批判した恐慌対応


 その結果、アメリカ経済はますます悪化したのも事実です。2008年のリーマン・ショック発生時のFRB議長バーナンキは著書『大恐慌論』(日本経済新聞社出版)で、QE(Quantitative easing、量的金融緩和政策)を迅速におこなわなかったことが、不況を深刻化させた最大の原因であると当時の金融政策を厳しく批判しています。

 しかし、当時の世界恐慌下で金融緩和を行っていたならば、金本位制は破綻し、そのことが世界経済に与えたであろうダメージもまた大きかった、と主張する経済学者もいます。ここは議論の分かれる問題で、はっきりとした答えがあるわけではありません。

 フーヴァーの金本位制防衛の努力によって、恐慌発生後も、世界経済の秩序が保たれていましたが、次の大統領のルーズヴェルトが金融緩和をおこなうため、金本位制を放棄します。そして、国際流通が大きく停滞していきます。
 次回はルーズヴェルトの恐慌対応について、見ていきます。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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