カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第9講・ニューディール政策とは何だったのか? その②」

 景気回復していく1935年のニューヨーク

景気回復していく1935年のニューヨーク

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

公共事業への予算は限定的だった


 1933年以降、世界恐慌に対応するため、ニューディール政策が展開されます。ニューディール政策の骨子は豊富な財政出動で、公共事業を起こして、需要を喚起し、また、大胆な金融緩和で、資金を市場に供給し、景気を浮揚させること、とされます。

 しかし、これらの効果について、否定する見解があります。財政政策について、一般的に、ケインズの有効需要理論がニューディール政策に全面的に採用され、公共事業が大規模におこなわれたと考えられていますが、必ずしもそうではないのです。

 1932年のフーヴァー政権で、政府支出はGNP比8.0%で、ルーズヴェルト政権の1936年にGNP比10.2%となっています。政府支出はGNP比で、僅か2%強しか増えていません。赤字国債は1932年のGNP比33.6%から、1936年のGNP比40.9%の増加幅に留まっています。

 ケインズが1934年、ルーズヴェルトに会った時に、赤字国債増発を躊躇しないよう提言したのに対し、ルーズヴェルトは了解しませんでした。ルーズヴェルトはケインズとの会合について、以下のように語っています。「彼は統計の数字の話ばかりしていて、経済学者というよりも数学者のように思えた。」

 ニューディール政策における、公共事業はダム建設などに限定されており、実際には、財政出動の規模は抑制されたものであったのです。

マネー・サプライは増えていない


 ルーズヴェルト政権は金本位制を停止し、通貨と金(ゴールド)のリンクを切り、通貨発行の自由裁量権を得て、金融緩和に踏み込みます(因みにケインズは金本位制停止を従来から主張) 。しかし、その貨幣供給量は1929年の恐慌発足時に戻す程度のものでしかなかったのです。この間、ドル円の為替相場において、ドル高が進む程、ドルの供給ベースは緩慢でした。

 しかも、民間貸出しは全く回復しておらず、市場への資金供給は進んでいませんでした。リチャード・クー氏は1933年からのマネー・サプライ増加は財政出動の支出額分でしかないことを主張しています。つまり、クー氏によると、ニューディール政策において、金融緩和の効果はほぼ認められないということになります。

◎ニューディール政策を巡る議論
●財政政策として
肯定者: ピーター・テミン、リチャード・クー
→(反論) 充分な財政支出とは言えない
●金融政策として
肯定者: フリードマン、バーナンキ
→(反論) 民間貸し付けは増加していない

戦時特需に救われる


 また、ニューディール政策の効果を全面否定する見解もあります。ニューディール政策は結局、財政政策としても金融政策としても、ほとんど効果はなく、1933年に景気が底打ちするのは、経済が自律的な景気回復局面に入ったからであり、政策の効果ではない、とする考え方です。

 1932年、つまりニューディール政策がはじまる1年前から、既に失業率や物価が底打ちし、上昇に向かっているという事実は、そのような考え方を裏付けるものです。景気を根本的に回復軌道に乗せたのは、1939年からはじまる第2次世界大戦の戦時需要であったことだけは間違いありません。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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