カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第10講・CEAが主張した軍拡の景気刺激効果」

大統領経済諮問委員会紋章

大統領経済諮問委員会紋章

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

経済成長と軍事費拡大


 第2次世界大戦後、米ソの2大国による冷戦がはじまります。冷戦期において、世界経済は高度成長を遂げ、先進国を中心に幅広い中間所得層が生まれます。先進国は民主主義の制度の中で、経済成長の恩恵を国民に、どのように分配するかという大きな課題に直面しました。また、冷戦の危機の高まりを背景に、増大する軍事費をどのように、国民に負担させるかという問題にも直面します。

 ソ連軍は第2次世界大戦中、ベルリンへ侵攻する過程で、東欧諸国を事実上、支配下に置き、勢力が大きく拡大します。

 戦後、ソ連がさらにギリシア、トルコを共産主義化しようとしているとして、アメリカのトルーマン大統領は1947年、「トルーマン・ドクトリン」を発し、ソ連の勢力拡張に対抗しはじめます。アメリカはギリシア、トルコを経済支援し、共産主義への防波堤とします。

 同年、マーシャル・プランで、ソ連支配下の東欧を含むヨーロッパ諸国に、経済援助をおこなうとしますが、東欧諸国に関しては、既にソ連の支配と締め付けが固まっており、アメリカの資金は受け入れられませんでした。

 アメリカは、マーシャル・プランの約130億ドルをはじめ、1953年までに443億ドルもの資金(ほとんどが贈与)をヨーロッパに提供し、資本主義陣営の結束を強め、ヨーロッパに対する大きな影響力を発揮します。

「国家安全保障会議第68号文書(NSC-68)」


 さらに、アメリカは共産主義の脅威に対抗するため、国家安全保障法により、国家安全保障会議、軍の統括機関の国防総省(ペンタゴン)、諜報機関の中央情報局(CIA)を設立し、軍事・諜報の関連予算を引き上げます。

 1948年、チェコで共産主義クーデターが発生し、共産主義政権が誕生しました。1949年にはソ連が原爆実験に成功し、アメリカの核独占は破られます。さらに、共産主義の中華人民共和国が建国され、アメリカは東アジアにおいても、劣勢に追い込まれます。

 国家安全保障会議は1950年、事態を重く受け止め、ソ連などの共産主義勢力を封じ込めるための新たな戦略方針を「国家安全保障会議第68号文書(NSC-68)」でまとめ上げます。この文書は、共産主義に対抗するために、軍事力を緊急に増強する必要性を強調していました。

 具体的には、軍事支出(国防費)の水準を従来の4倍(1951~1955年会計年度の5年間で少なくとも2250億ドル)に引き上げることが求められました。当時、国防費を政府年間予算総額(約300~340億ドル)の3分の1に抑えるとするホワイトハウスと議会の協定がありました。「NSC-68」は事実上、この協定の破棄を求めるものでした。

軍拡の有効需要


 軍拡の財源は低金利政策と物価安定を維持するために、国債発行を避け、非軍事政府支出削減と増税によって賄う方針でした(実際に、非軍事政府支出はGDP比の5.4%に縮減、所得税はGDP比の1.32%増税)。問題はこれらの負担について、どのように国民を説得するか、でした。当時の大統領トルーマンは、「NSC-68」に合意しましたが、この軍拡路線がアメリカ経済にどのような影響を及ぼすかを慎重に見極めようとしました。

 トルーマンは、大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers, 略称CEA)に調査をさせます。委員のレオン・カイザーリングなどのケインズ派の経済学者は、軍拡によって、有効需要が創出され、景気刺激効果が経済の好循環を生むだろうと、軍拡を肯定しました。また、原爆・水爆の核爆弾製造は安価に大量生産でき、効率的な戦力整備である点も主張されて、「NSC-68」の拡戦略の拡張という趣旨に沿いました。

 そして、アメリカの軍拡路線を決定付けたのは同年6月の北朝鮮軍による38度線越えによる朝鮮戦争の勃発でした。最終的に、トルーマンは「NSC-68」を全面採用し、冷戦へ向けて、本格的な臨戦体制に突入していきます。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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