カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第11講・軍拡を必要としたのは国民だった」

外交官ポール・ニッツェ

「NSC-68」をまとめた外交官ポール・ニッツェ

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

戦争を拒否する今日のアメリカ


 2003年、アメリカのブッシュ政権はイラク戦争を起こしました。4400人ものアメリカ軍の死者を出し、200兆円に及ぶ戦費を投じました。アメリカはこれだけの犠牲を払って、フセイン政権を倒す必要があったのか、批判も少なくありません。

 オバマ大統領はイラクからの完全撤退を公約にして、大統領選に勝利し、2011年、公約通り、撤退を完了させました。オバマ政権は国内の厭戦世論に配慮し、イラクに軍を派遣しませんでした。オバマ大統領は就任後間もなく、300人の軍事顧問をイラクに送り、イラクの混乱を様子見しました。

「イスラム国」(IS)が拠点とするモスルの奪還戦が展開されていますが、アメリカは地上部隊を投入する気はなく、イラク政府軍を前面に立たせ、後方支援に回り、直接に参加していません。アメリカは先月以降、イラクに、約5400人の「軍事顧問団」を送っていますが、イラク政府軍の助言や後方支援をおこなっているのみで、戦闘には参加していないのです。

受け入れられた税負担


 いつの時代でも、国民一般民衆は戦争や軍拡、それに伴う負担を望みません。2003年のイラク戦争を経て、今日のアメリカは特に、一国平和主義的な孤立主義の傾向を強めています。現在のアメリカ国民は覇権よりも、国内平和と福祉施策の拡充を求めているのです。

 しかし、冷戦期のアメリカにおいて、軍拡路線の税負担が労働者階級などの一般国民にスムーズに受け入れられました。それは、なぜでしょうか。冷戦期、アメリカのトルーマン大統領は「国家安全保障会議第68号文書(NSC-68)」を全面採用し、冷戦へ向けて、本格的な臨戦体制に突入していきます。

 1951年度の国防予算額は482億ドルに膨れ上がります。1952年度の国防予算額について、統合参謀本部は当初、823億ドルを要求しましたが、555億ドルに見直し、議会の承認を得ました。こうして、冷戦期のアメリカは軍拡路線に急激に舵を切ることになりました。

軍需産業の拡大サイクル


 第2次世界大戦以前のアメリカは軽武装国で、軍事支出は国民総生産(GNP)の僅か1%程度でした。ヨーロッパと比べ、軍事費の負担が軽かったことが、アメリカの経済発展を支えた一つの要因でした。

 太平洋戦争で、日本との戦いがはじまった当初、軽武装のアメリカは日本軍の進撃を食い止めることができず、開戦から2年経って、ようやく軍備を整え、反撃に転じました。この時、武器・弾薬、軍用機・艦艇などを大量生産するラインが急速に構築され、多数の労働者が雇い入れられました。

 アメリカは第2次世界大戦を経て、軍需物資の生産が鉱工業生産全体の大きなシェアを占める産業構造に変わりしました。戦後もこの構造は続きます。高まる米ソ対立の背景も相俟って、アメリカは戦時動員経済を解くことはできませんでした。

 軍需産業に関わっていた膨大な数の労働者を引き続き、雇用するには、社会主義の脅威を国民に認識させて、軍拡路線をとり、戦時体制並みに国防費を増大させていく以外に方法がなく、労働者もそれを強く望んだのです。

 本来ならば、このような放漫財政は持続不可能で早期に破綻するものですが、戦後の高度経済成長によって、軍需産業の拡大サイクルが維持されていくのです。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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