カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第13講・戦争は儲かるのか ①」

アイゼンハワー大統領

退任演説において、アイゼンハワー大統領

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私 たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

軍産複合体(Military-industrial complex)

 1961年、アイゼンハワー大統領は退任演説において、肥大化する軍需産業を「軍産複合体(Military-industrial complex)」と呼び、それらが過剰な社会的影響力を持っていることに対し、警告を発しました。  軍産複合体の典型的な会社として、ロッキード社(航空機)、ボーイング社(航空機)、レイセオン社(ミサイル)、ダウケミカル社(化学)、デュポン社(化学)、ゼネラル・エレクトリック社(電機)、ノースロップ・グラマン社(軍艦、人工衛星)、ハリバートン社(資源生産設備)、ベクテル(ゼネコン)、ディロン・リード社(軍事商社)などがあり、またスタンダード石油に代表される石油メジャーも含まれることもあります。  これらのアメリカの軍産複合体は、今日まで大きな影響力を持ち、「戦争のための戦争」に国家を駆り立てています。  軍産複合体やそれに関連する勢力はマスコミや外交専門家を懐柔し、「敵」の脅威を誇張します。ソ連はアメリカよりも多くのミサイルを持っている、アメリカよりも高性能な航空機を有している、ソ連の影響力がアジアに拡大している、というような記事が冷戦期において頻繁に、報道されました。  国民は脅威と戦う「強いリーダー」を望み、選挙に当選したい候補者は、軍産複合体を味方に付け、軍事拡大を主張するというのがアメリカ政治の定石となります。

経済成長に効果があった戦争

 アメリカは1898年のアメリカ・スペイン戦争以来、対外戦争で大きな利益を上げてきました。アメリカ・スペイン戦争で、カリブ海、フィリピンに支配権を拡げ、資本が海外に展開されていきます。 第1次世界大戦(1914~1918年)で、アメリカはヨーロッパに軍需物資を輸出し、貿易黒字を拡大させ、債権国の地位を確立します。  経済成長に最も効果があったのは第2次世界大戦(1939~1945年)でした。 戦争前、1938年の一人あたりGDP成長率はマイナス4.72%(『Angus Maddison, OECD The World economy—A millennial perspective』 )でした。これは、1933年からはじまるニューディール政策の財政出動を終わらせ、緊縮財政に方向転換したことで引き起こされた大きな景気後退でした。  1939年、大戦がはじまると輸出産業を中心に活況を呈し、一人あたりGDP成長率は7.1%に好転し、景気が急回復していきます。太平洋戦争が本格化し、戦時動員体制が取られた1942年には、一人あたりGDP成長率は史上最高の18.7%を記録します。16%近くあった失業率は3.9%に改善されます。

「儲かる」成功体験

 古来より、「戦争は儲かる」とされてきましたが、まさに第2次世界大戦はアメリカにとって、儲かる成功体験そのものであったのです。この成功体験が麻薬のように、アメリカ国民を痺れさせて、前述のような戦後の軍拡路線に突き進んでいくことになります。  軍拡の直接の引き金となった朝鮮戦争(1950~1953年)も景気刺激の効果をもたらします。第2次世界大戦後、戦時需要がなくなり、景気後退に陥っていたアメリカ経済が再びプラス成長に転じます。朝鮮戦争前の1949年、一人あたりGDP成長率はマイナス1.33%でしたが、1950年、6.89%へと急回復します。  しかし、「戦争は儲かる」というセオリーがヴェトナム戦争(1965~1973年)以降、崩れていきます。次回は、このセオリーの崩壊を詳しく、見ていきます。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。
世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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