国立の歴博が、入場料収入をアップさせる秘訣(2)――「アジア・太平洋戦争」という用語

『正論』(平成25年9月号)の読者投稿の記事

 次に、「アジア・太平洋戦争」という用語である。これを見た時、違和感を覚えた。  歴博が自ら発行している『国立歴史民俗博物館三十年史』では、 「その後、国史館建設事業は(中略)太平洋戦争の勃発にともなう経費・物資の不足などのため、計画は立ち消えとなった」(1ページ、平成26年3月発行)  と記している。上記、太字部分が「アジア・太平洋戦争」と書かれていたら、多くの人は違和感を覚えるだろう。そのため、『三十年史』の発行では、歴博自らが「太平洋戦争」と記している。にもかかわらず、第6展示室の解説文では「アジア・太平洋戦争」と書くこの矛盾、相違は何なのか。  同じような違和感を覚えた人がいて、千葉県成田市在住の上田真弓さんという方が、雑誌『正論』(産経新聞社、平成25年9月号、339ページ~340ページ)に投稿している。それが、上の写真である。  アジア・太平洋戦争という用語をなぜ用いているかに関する歴博からの回答も紹介されており興味深い。  歴博の回答は、概ね以下の4点に集約できる。  ①歴史学界では、かつては、「15年戦争」と呼ばれることが多かった。  ②近年、学界では、「アジア・太平洋戦争」と呼ぶことが多くなった。  ③この呼称は、現在では多くの歴史教科書でも紹介されている。  ④戦時だけではなく、戦後のなかでも補償や責任、和解などの問題が依然として続いていることを意識した用語であり、(歴博も)この呼称を使っている。

本当に多くの歴史教科書で紹介されているのか

 歴史学界の体質については後述するとして、まず③の「現在では多くの歴史教科書でも紹介されている」が本当なのかどうかを検証したい。  格好の参考書があり、それは『ここまで変わった日本史教科書』(吉川弘文館、平成28年9月)である。この本の著者は、文部科学省で歴史教科書の検定を担当する現役の教科書調査官2名とOB1名が執筆しており、大変参考になる。  その一節に、「『先の大戦』を何と呼ぶ?」というテーマがあり(172~175ページ)、小・中学校、高校の歴史教科書で用いられている戦争呼称について記述している。  そのポイントは、以下の通りである。 (ア)2015年から使用されている小学校6年の教科書4点すべてが、「太平洋戦争」と呼 んでいる。(うち1点は側注で「最近では、アジア・太平洋戦争と呼ばれることも増えてきている」との説明あり) (イ)2015年度に使用された中学校歴史教科書7点の本文記述では、次の通り。 「太平洋戦争」3点 「大東亜戦争」2点、見出しでは、太平洋戦争(大東亜戦争)と大東亜戦争(太平洋戦争)と表記 「太平洋戦争(アジア・太平洋戦争)」1点 「アジア太平洋戦争(太平洋戦争)」1点 (ウ)高校では、最も多くの生徒が用いている教科書を含め、7割の生徒が使っている教科書に「アジア・太平洋戦争」の用語がない  このように、小・中学校、高校で用いられている歴史教科書においては、太平洋戦争の呼称が多数であり、「アジア・太平洋戦争」の呼称は少なく、歴博の「現在では多くの歴史教科書でも紹介されている」との回答は極めて不正確である。(続く) (文責=育鵬社編集部M)
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