第九十夜【前編】

ママは女子レスラー 客は道場入門生。
スナックを舞台に酒飲みバトル開始!

 小学生の頃、どのクラスにもなぜか一人はいた”女ボス”という存在。女子小学生の早熟な体は男たちを上から目線で睨みつけ、腕っぷしは男勝り。もちろん、口喧嘩だってめっぽう強い。

 気弱なスギナミ少年にとって、”強い女”は恐怖そのものであり、憎むべき相手。全日本女子プロレス(全女)の黄金カード、「クラッシュギャルズ×極悪同盟」は、もちろんクラッシュギャルズ寄り。長与千種の髪を掴み、場外を闊歩するダンプ松本に対して、憤りを感じていた……のだが、ある出来事がきっかけで、心境に変化が。

 当時熱中していたバラエティ番組『女だらけの水泳大会』で、アイドルの水着を容赦なくはぎ取るダンプ松本の勇姿を目の当たりにして、思わず「ダンプ、行け~ッ」と声を嗄らして叫んでいたのだ。

 それは子供心ながらに「ヒールがヒーローに変わった」瞬間であり、強い女同士の戦い――つまり女子プロレスに傾倒していく契機となった。ダイナミックな技の数々と、「イッくぞ~」、「テメェ、コォノヤロー」と感情をむき出しにして飛びかかる姿。思春期にさしかかり、次第にしおらしくなる周囲の”元・女ボス”とは裏腹に、いつまでも変わらず”暴君”であり続けるリング上の女たち。

 個人的な女子プロ熱中時代から長い歳月はたったが、「彼女たちはリングの外でも女ボスであり続けるのか?」を知りたい気持ちに変わりはない。その問いに答えを出すべく、一軒のスナックへと足を運んだ。

新規客は道場入門生
体育会ノリで大騒ぎ

 武蔵小山駅東口のすぐ側に軒を連ねる小規模スナック群。昭和の風情を残すエリアに、お目当てのお店「あかゆ」はあった。

 扉を開けると「いらっしゃ~い」と、店内の喧噪をかき分けるようにひと際大きな声が。特徴的な赤色の顔面ペイント――そう、ここは全女黄金期をもり立てた女子プロレスラー・井上京子選手がママを務めるお店なのだ。

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「可憐な女のコはいないかもですが(笑)、明るく楽しく飲めることは間違いなしです」(京子ママ)

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伝統的に武蔵小山はプロレスラーが多い。お店には有名レスラーも客として続々来店する

協力/小野田 衛 撮影/丸山剛史

スギナミ 東京都生まれ。主な出没地域は中野、高田馬場の激安スナック。特技は「すぐに折れる心」
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