奨学金を返済できない若者が増加。背景に「教育に予算を割きたくない国の本音」
はたして、返済不要の「給付型奨学金」は実現するのか――。
政府は「ニッポン1億総活躍プラン」で、返済不要の給付型奨学金について「創設に向け検討を進める」と明記した。安倍晋三首相は3月の記者会見で「給付型奨学金」創設の意向を表明したが、具体的な導入時期は示されていない。
神奈川県藤沢市では21日、大学への就学支援を目的とした「給付型奨学金」を新たに設ける方針を明らかに。給付型の奨学金制度を自治体が設けるのは県内初。神奈川新聞によると、市教育委員会の小林誠二次長は「貸与型の場合、不況や非正規労働が原因で奨学金の返済ができず、自己破産に追い込まれるなど返済が大変重荷となっている状況がある」と給付型の意義を強調した。
現在の奨学金は無利子と有利子での貸与型となっており、日本学生支援機構では、無利子の奨学金を「第一種奨学金」、有利子の奨学金を「第二種奨学金」と呼んでいる。現在は有利子の割合がおよそ7割を占めている状況だが、一方で「奨学金を返済できない」と困窮する若者が増えている。
そもそも、なぜ「奨学金を返済できない」若者が増えたのか? 今回は、自身も奨学金を受ける立場であり、かつて日本学生支援機構に対して滞納者ブラックリスト化の撤回を求めたこともある政治学者の栗原康氏に話を聞いた。
――奨学金にお世話になった人の話を聞いていると、新卒で入社しても毎月の給料から奨学金が定額で引かれて、働く気がなくなると嘆いています。
栗原:僕の場合は大学院の修士と博士過程の5年間で奨学金を借りて、それだけで635万円です。月々の返済額だと4万円くらいですね。定職に就いた人でも返済を考えるとブルーになるわけですから、僕みたいな大学の非常勤講師で、時々ニートの人間には返せない。僕はまだ無利子だからいいのですが、これが有利子だと絶望しかない。一番怖いのは、返せなくなって利子が膨らんでいくことです。
――学費と奨学金を支払うため大学ではバイトに明け暮れる学生は多く、若者からは「なぜ奨学金を返さないといけないのか」といった主張も出ています。
栗原:僕も返す必要はないと思います。“奨学”金ですからね。むしろ「借りたものは返せない」くらいに言ってやったほうがいい。
――実際に、周りでも奨学金の返済に苦しむ学生は多いですか?
栗原:めちゃくちゃ苦しんでいますね。1990年代くらいの僕が学生だった時期までは、親が大学の学費を払ってくれる学生が多かったと思いますが、それは親が団塊の世代だからですよね。例えば、僕の親は公務員だったから学費を払えるには払えていた。でも、今の経済状況は昔とは違いますからね。今でも親が学費を払えるという話にはならない。団塊の世代は、その親が豊かじゃなくても大学に行けた。なぜかと言うと、1970年の初めまでは国公立だと学費が年間1万円くらいだったからです。

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