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映画監督・是枝裕和が“家族”の物語を撮り続ける理由「自分がこうありたいと思っていた姿とはどれも違う」

是枝裕和監督――監督の場合は、原案と脚本から考えられた作品が多いですが、もともと自身の体験に基づいた物語を書きたいという気持ちや欲求があるのでしょうか? 是枝:そうですね。企画が通るのであれば、オリジナルでやりたいなという気持ちと、だけど『海街diary』みたいに、大好きな作品と向き合って作っていくことで、自分の中からは出てこないだろう物語に触れるというのは、経験としてはとてもよかったから、またやりたいとは思ってるけどね。「自分の書いたものしかやりません」なんて言っちゃうと、それはそれで話が似通ってきちゃうしさ。 ――作品の幅と言いますか、やはり一人の人生では限界がありますよね。 是枝:そう、そうそう。限界があるじゃないですか。 ――今作では、登場人物のそれぞれが印象的な言葉を残しています。それらは、是枝監督の実体験に基づいて出てきた言葉なのでしょうか? 是枝:いや、いろいろですよ。例えば、あの状況に置かれたときに、母親は何を言うかなということは想像力もあるだろうし。だけど「今を愛せない人だったね」というのは、父親が死んだときに母親が言ったことだったから、そういう言葉は聞いて残ってるものですね。 ――いつも映画には、何かメッセージを込められているのでしょうか? 是枝:あんまり何かそういう人生訓的なメッセージを込めてるつもりはまったくないですね。それは映画を観た人が、自分の人生に照らし合わせて持ち帰っていただくものなので、「人生はこうあるべきだ」とか、「こうすると幸せになれるよ」とか、もし僕にわかってたら、たぶん僕は映画を撮らずに宗教家になると思います。あんまり映画に、そういうことを求めないほうがいいだろうと思いますよ。もし作り手がそんなことを言い始めると、たぶんその作り手は、いずれ政治家か宗教家になるんじゃないですか。  映画を観る人がどう観るかは、その人のものだから。僕だって、映画を観て人生観が変わったなんてこともなくはないけど、「人生観を変えてやろう」と思って作っているとしたら、おこがましいじゃないですか。それは、さすがにね。いるかもしれないけど、そういう人も。 ●映画『海よりもまだ深く』 http://gaga.ne.jp/umiyorimo/ <取材・文/北村篤裕 撮影/林紘輝>
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