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新海ウオッチャーが語る「『君の名は。』の超ヒットと匂い立つエモさ」

わかりやすい構成と、かえりみられない小道具

 『君の名は。』を見てすぐ気づいたのは、教科書通りといってもいいほどのわかりやすい三幕構成だ。男女の入れ替わりが起こりそれに気づくまでの一幕目に、入れ替わり生活を通じてお互いの境遇を知る第二幕、女性主人公三葉の結末を回避するために奮闘する男性主人公瀧の姿と再会を描く第三幕のバランスがほぼ等分に描かれている。  また、これまではSF風の雰囲気で押し切りがちだったストーリーのギミックに、「口噛み酒」や「むすび」などの民俗学的な因縁も重ねて納得しやすいストーリーラインを作っていること。  はっきり言って、今までの作品と比べて一般的な意味で“ちゃんと”していて、エンタメ作品としての体裁がかなり整っている。観客への説明も過剰なほどで、そこまで説明するの? と不安になるほど。結局何が言いたいの? という身も蓋もない観客の問いに完璧に答えていて、鑑賞して意味がわからなかったという人はほとんどいないんじゃないだろうか。  そこまでちゃんとしている外観を作ることができているのに、ストーリーの最重要アイテムである「スマートフォン」などに代表される細部のツメが凄く甘いのも気になるポイントだ。  「君の名は」といえば、まず思い浮かぶのがNHKの連続ラジオドラマ、真知子巻きのショールスタイルが一世を風靡した岸恵子主演の映画『君の名は』だろう。こちらの『君の名は』は、東京大空襲の夜に数寄屋橋で男女が半年後に再会しようと約束してからのすれ違いと数奇な運命を描いた作品だが、そのあまりのすれ違いっぷりに1991年にテレビドラマ化された鈴木京香主演の朝ドラ『君の名は』では「ケータイか電話で連絡とればすぐ会えるよ!」と視聴者からのツッコミが幾度となく入った。  その伝説のドラマの名前を頂いたからか、新海誠の「君の名は」も現代を舞台にして、通話だけではなくメール・メッセンジャー・メモ機能なども満載されたスマホをメインの道具にしているのに、「ふたりの時間軸がずれていたから!」という説明だけで、堂々とスマホ片手にすれ違いさせまくっている。それ、スマホが一番時間のずれに気づきやすいから! 「連絡先教えて」といえばLINEのIDのことになっている高校生を主人公に据えていながら、すれ違いのメカニズムは本家『君の名は』とそう変わらないという不思議な事態になっている。  第一作『ほしのこえ』では携帯電話のメール機能をつかい、外宇宙に旅立った彼女とのメール交換が電波の届く時間のせいで徐々に時間がかかり不安をつのらせていくというストーリーを描いた新海誠がそのことに気づいてなかったはずはない。その証拠に『君の名は。』では、スマホでの日付表示は年号は表示されない。あ、黙殺した!  ほかにも見返すと、構成や場面立ては教科書通りキッチリやるのに、そこに登場する概念や小道具の機能的な意味については投げやりにも見える処理をしているシーンが散見される。画面の端々から「細けえことはいいんだよ!」という声が聞こえてきそうだ。
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モノローグ劇のエモさからポリ・モノローグへ
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【声の出演・スタッフ】
神木隆之介 上白石萌音
成田凌 悠木碧 島崎信長 石川界人 谷花音
長澤まさみ 市原悦子

監督・脚本:新海誠
作画監督:安藤雅司
キャラクターデザイン:田中将賀
音楽:RADWIMPS

全国東宝系にてロードショー中
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