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80年代ラブコメの金字塔『めぞん一刻』 聖なる酔っぱらいの告白――南信長のマンガ酒場(1杯目)

伝説の「響子さ~ん 好きじゃあああ」

 お人好しで優柔不断な五代は、基本的に巻き込まれ型の被害者ポジションだ。常日頃から一刻館の面々におもちゃにされ、響子さんといい雰囲気になると必ず邪魔される。酔っぱらった朱美さんや一の瀬さんのせいで、あらぬ誤解を受けたことも数知れず。  ただし、彼自身も酔った勢いで普段はできない大胆な行動に出ることがある。その最たる例が、第9話「アルコール・ラブコール」と題されたエピソードだ。  響子さんが実は未亡人と知りショックを受けつつも、好きな気持ちは変わらない五代。コンパでしこたま飲んだ帰り道、一刻館の玄関先にたどり着いたところでツレの友人と騒ぎながら「やるっ 大々的に発表するろっ!!」とろれつの回らない口で宣言する。そこで彼は、あらん限りの大声で絶叫するのだ。 「ご町内のみなさまーっ 私こと五代裕作は響子さんが好きでありまーす」【図3】 ⇒【画像】はコチラ(図3)https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1236416
図3「めぞん一刻」1巻p179

【図3】『めぞん一刻』1巻P179より。(c)高橋留美子/小学館

 何事かと出てきた響子さんも思わずタジタジ。さらに、近所迷惑だからという制止も聞かず第二波発射! 「響子さ~ん 好きじゃあああ」  これぞ伝説の名シーン。現実でも酔った勢いで告白というのはありがちだが、これほど派手なのはそうそうあるまい。良くも悪くも酒の力は恐ろしい。このあと「さ、お部屋に行きましょ」という響子さんのセリフを都合よく解釈し、いきなりお姫様抱っこ、そのまま自分の部屋に連れ込みふとんに押し倒す五代。しかし、残念ながら酔いつぶれて眠ってしまう。最初にして最大のチャンスを逃した五代は翌日手痛いしっぺ返しを食うことになるが、それはまあ自業自得というしかない。  同作が始まったのは、奇しくも『日本全国酒飲み音頭』がヒットしていた1980年。『ビッグコミックスピリッツ』の看板作品として創刊号から’87年まで連載され、大学生を中心に絶大な人気を獲得した。いろんな誤解やすれ違いで、こじれまくる二人の関係がじれったくも可笑しくて、笑いながらも胸を締めつけられる。  LINEどころかメールも携帯電話もない時代の恋愛模様は、今の若い人から見たら理解しがたい部分もあるかもしれない。が、人を想う気持ちに変わりはないはず。もつれた糸がほどけて二人を結び付けていく終盤の展開は、何度読んでも号泣だ。  極めつきは、娘かわいさから暴走して酔いつぶれた響子パパを背負った五代のプロポーズシーン。五代自身も飲んでる状況だが、学生時代の絶叫告白とは対照的な落ち着いた言葉に、5年の時の流れを感じさせる。いつのまにか五代も成長していたのだ。    ラブコメとして、青春ドラマとして、群像劇として、そして酔っぱらいマンガとして、まさにエバーグリーンの名作。読まずに死んだら人生の損失である。 文/南信長●1964年大阪府生まれ。マンガ解説者。著書に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『やりすぎマンガ列伝』がある。
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めぞん一刻 (1)

「一刻館」の住人と美人管理人の間で巻き起こる爆笑ラブ・ストーリー


現代マンガの冒険者たち

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