カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第21講・18世紀のベンチャー・キャピタル②」

ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。                   

ボールトン&ワット商会

 ワットはニューコメンの蒸気機関ポンプに興味を持ち、独自に研究しました。1765年、ワットは改良装置の設計図を苦労の末、書き上げましたがそれを実用化するには、莫大な資金がかかり、簡単には製造できませんでした。  当初、実用化できるかどうかも分からないワットの装置設計に、資金を投じることは大きなリスクがありましたが、ジョゼフ・ブラックやジョン・ローバックが多額の資金を提供します。彼らは、実業家であると同時に投資家で、現代でいうベンチャー・キャピタルの役割を担いました。  ジョン・ローバックはワットを支援すると同時に、特許申請の業務を請け負いました。ところが、ローバックの製鉄工場が破産してしまいます。  バーミンガムの金属加工業者マシュー・ボールトンはワットの研究に目を付け、ワットの新たなパトロンとなり、ローバックの特許を引き継ぎます。ボールトンはウェッジウッド社の陶器に、繊細な鉄加工を組み合わせる商品開発をおこなうなどして、成功していました。1775年、ボールトンはワットとともに、ベンチャー企業のボールトン&ワット商会を設立します。
50ポンドの記念紙幣に描かれたマシュー・ボールトン(左)とジェームズ・ワット(右)

50ポンドの記念紙幣に描かれたマシュー・ボールトン(左)とジェームズ・ワット(右)

10年以上かかった資金回収

  ワットの蒸気機関改良の最大の課題は、装置部品の精度の高い鉄加工でした。ボールトンは金属加工業者として、ワットを資金面だけでなく、技術面からも支援できると考え、また、ワットの研究に大きな価値があることを理解していました。  ボールトンの支援が効を奏し、ワットは1780年代に、紡績や研磨など多用な用途に応える円運動の蒸気機関装置を次々に実用化していきます。  紡績工場、砂糖精製工場、製粉工場など、各工場はボールトン&ワット商会の蒸気機関装置を買い求め、商会は独占的に装置を販売・供給しました。それでも、商会は莫大な開発資金をなかなか回収することはできず、1790年代半ばになり、ようやく赤字を解消することができました。  蒸気機関の実用化以降、人類は石炭・石油などの地下に眠る巨大なエネルギーを経済利益に変えていき、それまでとは比べものにならない富の再生産の拡大過程に入っていくのです。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。
世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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