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ハーリー・レイス『ローズ家の戦争』のあとで――フミ斎藤のプロレス読本#050【全日本プロレスgaijin編エピソード18】

 レスリング・ビジネスのいちばんいいところは、旅ができること。世界をみてまわること。遠い外国にたくさんの友人をつくること。もし、プロレスをやっていなかったら、14歳で家出をした不良少年が地球の裏側まで足をのばすことなどなかっただろう。  旅から旅への生活は、中学で学校をやめたハーリーをたいへんな読書家にした。世界じゅうにいる友だちに手紙を書く習慣ができた。「それに」とハーリーはつづけた。 「それに息子のジャスティンを子どものうちから海外に連れていってやれたことかな。彼は10代で日本、オーストラリア、ニュージーランドをみた。外国を知ることは、けっきょく、自分の国、自分のバックグラウンドを知ることにつながる。息子にはいい教育を受けさせてやりたかったんだ。オレはハイスクールさえ出ていないからね」  ひとり息子のことを話しはじめると、とたんに饒舌になった。すっかりさめてしまったコーヒーをぐいっと飲み干すと、ハーリーは「これからジャスティンに会いにいこう」といい出した。  20歳になるハーリーの長男は、テキサスのサザン・メソディスト大学で寮生活を送っているが、いまはちょうど夏休みでカンザスシティーに帰ってきているという。 「ジャスティンの母親は、さいわい今週末は家を留守にしている。弁護士の先生に怒られるかもしれんが、ちょっとだけならかまわんだろう。いっしょに来てくれ」  リアウッドにある大きな家は、家族3人が仲よく暮らしていたころとまったく同じ状態のままになっている。イボンヌさんは、離婚が成立したあともこの家に住むつもりらしい。ハーリーの現役時代のリング衣装、トロフィー、写真や雑誌類などはすでにガレージの奥の物置きに移されている。 「『ローズ家の戦争』っていう映画は観たかい。まあ、あれと同じだと思ってくれ。ジャスティンが大学に入って家を出てしまい、オレはオレでそのころWWEのツアーでまた家を空けるようになって、イボンヌはひとりだけ置いてきぼりにされたような気がしたんだろうね」  玄関のベルを何度か鳴らすと、家のなかからジャスティンが顔を出した。ハーリーとジャスティンはいまでももちろん仲のいい父子だ。両親が離婚係争中だといっても、ひとりっ子の長男はとくにどちらの側についているわけでもない。
斎藤文彦

斎藤文彦

 アメリカは離婚の国だ。ジャスティンはジャスティンで、これからも自分の意思でお父さんともお母さんとも仲よくやっていくつもなのだろう。プロレスにはあまり興味がないようだが、これはしようがない。 ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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⇒連載第1話はコチラ

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