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「AV業界がV字回復する要因なんてひとつもない」絶望系ライター中村淳彦の憂鬱

「AV業界はムラ社会そのもの」

――プロダクションの強さがAV業界の特徴である、と。 中村氏:昔からプロダクションの業務を邪魔しないのが、業界の絶対条件としてある。だから女優の人権が侵害されている現実があったとしても、口は出せません。AV業界はムラ社会そのもので、強要問題も第三者が介入したから発覚した。  社会問題化以降、僕含めて業界内部を知るライターが「あなたたちが声をあげないから問題が大きくなった!」みたいに責められることもあるけど、そんなことをしたら殺されはしないけど、たぶんケガします。無理。そういうムラの掟や特殊な価値観が世間にバレずにまわっているうちはよかったのでしょう。けど、今回の出演強要問題によって業界のムラ社会が可視化されてしまった。ある意味無法地帯と化したムラ社会を解体するしか、生き残る術はないでしょう。 ――AV業界内部では、世間の偏見を取り除きたいという動きもあります。特殊なムラ社会から、AV業界も一般企業、一般社会と同じになろうという。 中村氏:“内部”といっても上層部のホンの一部でしょう。現場の当事者たちの大部分は、みんなこの期に及んでも興味がありません。僕は一般人なのでAV業界が一般社会化してくれれば嬉しいですが、今のところ無理としか思えないですね。 ――出演強要とマネジメントの境界線も微妙ではないかという議論もあります。元AV女優で作家の鈴木涼美さんも「『口がうまい』というのと『騙す』というのの線引きはどこか? だんだんと『AV女優っていい仕事なのでは?』と思うのを洗脳ととるのか、モチベーションを上げるマネジメントかは微妙なところ」とAbemaTVで語っている。たしかに、内定した企業に入るか迷っている学生に、自社のよい所をアピールして「うちの仕事はこんなに魅力的!」と説いて就職を決めさせるのは人材マネジメントとして”優秀”と判断される。 中村氏:僕も最初はそう思いましたが、今回の問題が続々可視化されたことで、内閣府を含めた一般社会はスカウトされた女性たちにAV業界のメリットだけを伝えてAV女優に誘導することは完全にNGをだしています。つまり、一般企業の人材獲得と比較して議論するような段階ではないです。  昔はお金で魅力をアピールしていましたが、今はお金が払えなくなって“有名になれる”みたいな誘い文句がメインです。実際に単体デビューできれば有名になれる可能性もあったわけだし、強要問題が噴出する以前はその考えも違和感なかったのですが、女優の告発が続々と続いて、僕も意識が変わりました。 ――とはいえ、実際に前向きで華やかに活躍するAV女優もたくさんいるわけですし。 中村氏:20歳前後の女のコたちの“有名になりたい”という願望は漠然としていることが多いんですよ。だからこそ、これまでそういう心の隙みたいなのをすくい取って彼女たちをAVに出演させてきた。けど、仮にその場では単体女優として成功して彼女たち自身も楽しくても、5年後、10年後にどう思っているのか、誰にもわからないですからね。 ――引退したAV女優のことは、わからないのでしょうか。 中村氏:基本的にわからない。AV女優ってプロダクションに商品として徹底管理されているから現場では腫れ物のように扱われる。よくいえば、お姫様扱い。だからAV女優を頑張って、AV業界が好きでも人間関係がないから業界に残れないわけです。  引退後、メーカー社員なり広報なり監督なり、声が掛かってなるべくその産業で生きていけるキャリア形成があるべきと思うけど、あまり多くはない。使い捨てになっちゃっている。 ――ただ、今後はトップ女優なら、まだ救いがあるような気がします。今やテレビをつければ有名AV男優を見かけるし、有名AV女優の知名度なんて下手なアイドルより高いと思うのですが。 中村氏:トップ女優はいろんな可能性がありますよ。ただAV業界の人たちは目先の売上と、男性視聴者しか見ていない。社会に興味がないから女優の可能性を生かしきれていない。  いま確かなのは、需要に比べてAV女優が多すぎて一人当たりの作品数は今後増えていかないこと。「AV業界は儲かる」みたいなイメージがまだあるけど、市場規模はせいぜい500億円くらいです。特にこの数年は本当に儲かっていないし、誰が大きく搾取しているわけでないのに女優のギャラも驚くほど安い。 ――スマホゲームの市場規模が9250億円(※3)ですから、かなり小さいですよね。 中村氏:よくパチンコ業界を例に警察や省庁が利権で動いて、AV業界は潰れないみたいなことが言われます。けど、メインのAV消費者って50~60代、今後市場規模はどんどん縮小する。もはや、利権の欲しい省庁の食指が動くような市場規模ではないでしょう。

「僕はAV業界とはこれで距離を置きます」

――これまでの話で、中村さんがウンザリしている理由がよくわかりました。 中村氏:僕はAV業界とは距離を置きます。追いつめられて内輪揉めが始まっているし、女優の強要の告発はまだまだ続きそう。強要問題は内閣府や政党が注目するほどの大きな問題になので、AV業界はしばらく内輪で喧嘩をさせて、疲弊したところで潰そうみたいな疑念もあります。もはや、誰に操られているのかもわからない。正直、かかわりたくないです。  ウンザリですよ……。 <取材・文/伊藤綾> ※1……業界外の有識者によるAV業界改革推進委員会。契約書の統一によるギャラの透明化、プレイ内容の開示を推進しAVの制作作過程で「出演者の自己決定権等の人権と安全」が侵害されないような枠組みを遵守した「適正AV」の制作・流通を目指す ※2……「長による支配、ボスと子分の上下関係が厳然と存在する」「”掟”に関与しない世間一般のルールやマナーは守らず、他者にも強要。無法状態と化している」「排他主義に基く仲間意識が存在する」「自分逹が理解できない『他所者』の存在を許さない」など ※3……矢野経済研究所HPより
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii
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AV女優消滅 セックス労働から逃げ出す女たち

絶望系ライターの憂鬱がこれでもかと凝縮

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